http://www.asahi.com/national/update/1230/TKY201212290711.html
刑事責任を問うのは難しいというのが、今のところ検察内部の共通した見方だ。告訴・告発容疑の多くは業務上過失致死傷で、(1)被害は原発事故によるものと断定できるか(2)事故を予見し、適切に対応すれば結果を防げたか(3)複合的な要因があるのに、個人に責任を負わせるべきか――などが焦点となる。
上記の3は、こうした事故にはつきもので乗り越えることができるものですが、問題は1と2でしょうね。1については、原発事故が無ければ避けられたのではないか、という人の死が存在しても、刑法上、必要とされる因果関係が肯定されるためには、因果の連鎖とういレベルにとどまらない、事故と結果(人の死亡)との間の直接的な関係が必要ということになりますから、そのハードルはなかなか高いでしょう。また、傷害について、人体が放射線を浴びた、ということで捉えた告訴・告発が少なくないようですが、傷害をどのように考えるかについて、人の生理的機能への傷害、という捉え方をするのが一般的で、生理的機能への変化が顕在化していない段階で傷害という捉え方をするのも、なかなか困難なものがあります。
そして、最大の問題は、本件で、関係者に何らかの過失が認められるか、ということで、確かに、未曾有の大津波も予見しそれに備えるべきであった、ということは言えても、それを法的責任、特に、刑法上の具体的な予見可能性・予見義務、それを前提とした結果回避まで認定できるか、ということになると、かなり微妙で、慎重な検討が必要ということになると思います。
仮に、検察庁が不起訴処分にしても、ほぼ確実に、多くの事件が、検察審査会へと持ち込まれることになり、これだけ社会的影響が大きい事件ですから、中には、起訴相当、その後の不起訴を経て再度の起訴相当、強制起訴になる、といものも出てくる可能性があります。現在、福島地検が捜査にあたっているようですが、最終的に、福島地裁が多数の強制起訴事件を抱え、福島弁護士会が指定弁護士を多数出さざるを得なくなる、という、大変な事態(何が大変かは関係者であれば用意にわかるでしょう)に発展することも、十分あり得ると思います。
日弁連も、そうした事態になることを想定して、早めに対策を講じておくべきでしょう。