日本刑法学会第90回大会(1日目)

http://www.clsj.jp/sir/90/index.htm

5月19日、20日と、大阪大学吹田キャンパスで開催されています。
1日目の午前中の研究報告の中で、特に関心を持ったのは、「共謀共同正犯における共謀の概念と刑事手続」(慶應義塾大学亀井源太郎氏)でした。報告では、共謀共同正犯の「共謀」について、いわゆる練馬事件等を契機として議論されるようになった、客観的謀議説(共謀を「謀議」といった客観的なものとして捉える)と主観的謀議説(共謀を「犯罪の共同遂行の合意」と捉える)の対立が紹介され、刑事実務で、練馬事件判決が判示したように、共謀の具体的内容まで特定する必要がないとされていることへ疑問も呈しつつ手続上の問題にも言及されていました。
私自身、共謀については、基本的に主観的謀議説に沿うしかないだろうと考えていますが(常に客観的な「謀議行為」を必要とすることは刑法60条の文理に合わず、また、時には黙示の共謀ということもある共謀共同正犯の実態にも合わない)、合意、というものは、当然、意思の連絡、共同犯行の認識を経て形成されるもので、意思の連絡状況というものは、客観的に捉える事が可能なものですから、共謀したと評価されるに足りる十分な意思連絡状況というものが証明されて初めて、共謀というものが裏付けられてくるものだと考えています。従来の実務では、共謀というものは主観的なものだから、ということが強調され過ぎた面があり、何となくフィーリングで、情緒的に、アバウトに認定されてきてしまった傾向があって、
練馬事件判決が「謀議をなし」とした趣旨はそのような厳格認定という形で生かされなければならない、といった問題点を、報告を聞きながら、改めて感じました。
午後の共同研究の中では、分科会1「過失の競合」を傍聴しました。最近、過失が問題とされる大きな事故(脱線、雑踏における将棋倒し、船の衝突等)が立件、起訴されていて、中には無罪判決が出たものもありますが、その中には、複数の者の過失が競合して結果が発生した、とされているものもあり、こうした過失の競合の問題は、過失犯においては問題になりやすいもので、私自身も前から関心を持っています。研究発表では、過去の、著名な過失が問題となった事件も紹介されていて、実務家である私にも興味深いものがありました。
学会ですから、ダイレクトに実務に役立つものを見出す、というわけには行きませんが、発表や、交わされる議論は、いろいろな問題点を検討する上での切っ掛け、刺激にもなり、しがない実務家である私にとっても有益な勉強の場になっています。