酒井夫婦の供述に食い違い…W担当する弁護士の戦略

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090819-00000000-ykf-ent

両容疑者を同じ弁護士が担当する理由について、「供述内容を擦り寄せる狙いがある」とみる弁護士もいるが、板倉宏・日大名誉教授は否定的だ。
「口裏を合わせるよう指示して、供述内容を無理やり擦り寄せることは、弁護士も証拠隠滅の罪に問われかねないので、現実的には考えられない。双方の主張が決定的に対立する事態となれば別ですが、使用や頻度に食い違いが見られる程度なら、違う弁護士をつけることにはならないでしょう」

このように、関連する複数の被疑者、被告人、あるいは、共犯関係にある複数の被疑者、被告人に、同一の弁護士が弁護人としてつく場合、注意しなければならないのは、利益相反関係にならないかどうか、ということですね。
日弁連が定めた弁護士職務基本規程では、

第二十八条
弁護士は、前条に規定するもののほか、次の各号のいずれかに該当する事件については、その職務を行ってはならない。ただし、第一号及び第四号に掲げる事件についてその依頼者が同意した場合、第二号に掲げる事件についてその依頼者及び相手方が同意した場合並びに第三号に掲げる事件についてその依頼者及び他の依頼者のいずれもが同意した場合は、この限りでない。
一 相手方が配偶者、直系血族、兄弟姉妹又は同居の親族である事件
二 受任している他の事件の依頼者又は継続的な法律事務の提供を約している者を相手方とする事件
三 依頼者の利益と他の依頼者の利益が相反する事件
四 依頼者の利益と自己の経済的利益が相反する事件

とされています。
相互の供述が対立、矛盾するなど、利益相反の関係に立ってしまう場合、そのままの状態で受任し続けることは、弁護士倫理上、許されず、懲戒事由になる可能性もあります。一旦、利益相反関係にはないものとして受任しても、その後の経過の中で、そういった関係が生じた、あるいは、そのような関係に立つことが判明した場合、弁護士は、依頼者のすべてが同意するなど特別な事情がない限り、辞任するなどして速やかにそういった立場を解消しなければなりません。
刑事事件では、そのような場面が生じることは珍しくなく、特に、若手で経験があまりない弁護士の場合、気が付いたら利益相反関係の真っ只中にいた、ということがないように、十分、注意が必要ではないかと思います。
酒井夫婦の場合、気になるのは、上記の記事にあるように、供述相互に食い違いがある、とされていることです。そのような場合、利益相反関係が生じている可能性があり、そうであれば、「供述内容を無理やり擦り寄せる」「双方の主張が決定的に対立する」ということを問題にする以前に、そのような状態のまま漫然と事態を推移させないようにするのが、弁護士としての責任です。
弁護士倫理という観点からも、微妙さを抱えた事件になっているという印象を受けます。