http://www.yomiuri.co.jp/national/20151019-OYT1T50102.html?from=ycont_latest
判決によると、女は2013年6月〜昨年9月、ベビーシッターとして神田さんの自宅で長女を世話した際、計10回にわたり神田さんのバッグやブレスレットなどの貴金属(総額約1320万円相当)を盗んだ。
今年5月の1審判決は被害額が高額であることなどを理由に実刑とした。一方、同高裁は「自宅に出入りできることを悪用した犯行で、被害者の信頼を裏切り卑劣だ」と指摘しつつ、被告に被害を全額弁償する意思があることを考慮し、執行猶予とした。
こういった財産犯で、起訴された被害額が300万円前後から1000万円前後程度、被告人に前科がなく(あるいは軽微な前科があるだけ)犯行を認めていて、というケースでは、被害弁償、回復がされているかどうか(今後の見込みも含め)、それがどの程度に及んでいるかによって、執行猶予が付されるかどうかが分かれてきます。裁判官により、また、情状立証の仕方により、実刑、執行猶予と微妙に分かれてくるもので、検察官としても実刑を目指しつつ悩ましいものがあり、弁護人としても執行猶予を目指しつつ悩ましいという、双方にとって難しいものがあります。
他の報道では、上記の事件で、被害額全額が控訴審段階で供託(被害者が望めば受け取れる状態で法務局に預けた状態)されたとのことで、ただ、ここを実質弁償されたと見るのか、被害者が受け取っていない以上は大きくは評価できないと見るかは、被害者の感情もありなかなか難しいところでしょう。また、上記の事件では被害額が1320万円に及んでいて、私の経験上も、ここまで被害額が大きくなると全額弁償しても実刑になって執行猶予が付されないこともあり、執行猶予が付されるかどうかという点ではかなり厳しいものがある事件であったと思います。
被害額から見て、執行猶予が付されるのがかなり難しい、ぎりぎりのレベルで、情状立証が奏功し裁判所(高裁)の理解もかなり得られて執行猶予、というケースであろうと思いますし、今後の同種事件の弁護人としては、こうした事件で執行猶予が付されていると、可能であれば参考裁判例として活用したい、そういう事件として位置づけられると思います。