松本弁護団は「訴訟妨害」、高裁が来週にも処分請求へ

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20060923it01.htm?from=top

刑事訴訟規則は、弁護人が違法に裁判の迅速な進行を妨げた場合、裁判所は日弁連か所属弁護士会に、処分などの適切な処置を請求できると定めている。松本死刑囚控訴棄却に対する異議審の決定でも、東京高裁は「趣意書の不提出という実力行使は、訴訟手続きの進行妨害にほかならない」と指摘しており、今回の処置請求は、両弁護士の一連の弁護活動が裁判の妨害行為に当たると判断されたためとみられる。

問題となっているのは、刑事訴訟規則の、

(検察官及び弁護人の訴訟遅延行為に対する処置)
第303条
1 裁判所は、検察官又は弁護士である弁護人が訴訟手続に関する法律又は裁判所の規則に違反し、審理又は公判前整理手続若しくは期日間整理手続の迅速な進行を妨げた場合には、その検察官又は弁護人に対し理由の説明を求めることができる。
2 前項の場合において、裁判所は、特に必要があると認めるときは、検察官については、当該検察官に対して指揮監督の権を有する者に、弁護人については、当該弁護士の属する弁護士会又は日本弁護士連合会に通知し、適当の処置をとるべきことを請求しなければならない。
3  前項の規定による請求を受けた者は、そのとつた処置を裁判所に通知しなければならない。

です。
問題は、まず、控訴趣意書の不提出が、「迅速な進行を妨げた」行為に該当するか、でしょう。この点は、微妙かと思います。なぜかと言えば、控訴趣意書を提出しなければ、決定で控訴が棄却されるまでのことで(刑事訴訟法上、明記されています)、今回のドタバタは、高裁が、控訴趣意書不提出後に、迅速に控訴棄却決定を出さなかったことによるところが大きい、という見方も十分成り立ちうると思われるからです。控訴趣意書が提出されなければ、公判も開かず決定で控訴が棄却されますから、敢えて言えば、控訴趣意書の不提出は、刑事手続を極めて「迅速に進行」させることである、と言うこともできるでしょう。当事者が、仮に、「迅速な進行を妨げ」ようとしてそのような行為に及んだとしても、一種の不能犯であり、迅速な進行を妨げようがない行為、とも言えると思います。
期限までに控訴趣意書が提出されない、ということがあり得るからこそ、刑事訴訟法上、上記のような明文があるとも言え、適切な訴訟指揮ができなかった自らの不手際を棚に上げて処置請求、というのは、いかがなものか、という印象を受けます。
上記のような高裁の不手際は、規則303条2項の「特に必要があると認めるときは」にも影響するでしょう。そもそも、本件では、控訴趣意書不提出を理由に控訴棄却決定が出て、最高裁でも特別抗告が棄却されて確定しており、仮に「迅速な進行を妨げた」行為があったと仮定しても、既に、訴訟自体は終了しており、処置請求に「特に必要がある」とまでは認められない、という見方も十分可能でしょう。
いずれにしても、今後の弁護士会の対応が注目されるところです。