ニセ税理士の男を送検、名義貸し税理士は立件見送り・警視庁

http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20050825AT1G2500X25082005.html

同課によると、男は正規の資格を持つ東京都内の税理士2人にそれぞれ数十万円の報酬を払って、書類に署名と押印をしてもらっていた。しかし、税理士法に名義を貸した税理士を罰する規定がなく、同課は2人の立件は見送った。

おそらく、税理士法の中の、下記の条文が問題になったものと思われます。

(税理士業務の制限)
第52条
税理士又は税理士法人でない者は、この法律に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行つてはならない。
(名称の使用制限)
第53条
税理士でない者は、税理士若しくは税理士事務所又はこれらに類似する名称を用いてはならない。
(2項以下略)

いずれも罰則がありますが、どちらかと言うと、52条のほうが問題になったものと考えられます。
一方で、刑法にはこのような規定があります。

(身分犯の共犯)
第65条
犯人の身分によって構成すべき犯罪行為に加功したときは、身分のない者であっても、共犯とする。
(2項略)

条文上、「税理士でない者」が主体となっていて、「税理士である者」は主体とならない、という判断で、名義貸しした税理士が立件されなかったと推測されますが、それはおかしいと思います。
上記の規定は、「税理士でない者」という身分を必要とする、真正身分犯(税理士でない者にしか犯し得ない犯罪)を規定したものと見るべきでしょう。そのような身分者によるものであるからこそ、「税理士業務を行う」ことが犯罪になるわけです(税理士が税理士業務を行えば、犯罪になるはずがありません、当然ですが)。
逆に言えば、税理士でない者が自己の業務として税理士業務を行った場合に、それに荷担した者(このケースで言えば税理士による名義貸し)は、身分(このケースでは「税理士でない者」)がなくても、刑法65条1項により共犯になる、というのが正当な解釈でしょう。
成立する共犯関係としては、実務的には共同正犯ということになると思われますが、幇助犯の成立も考えられます。
同様の規定は弁護士法にもあり、罰則もありますが、

(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
第72条
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

こういった非弁行為に荷担した弁護士(やっていることは要するに名義貸し)が、過去に何人も立件されて有罪判決を受けています。
このような悪質な名義貸し行為については、きちんと立件しないと、今後も同種の犯罪が繰り返される恐れがありますし、「税理士が名義貸しを行っても犯罪にならない」という誤解が広がりかねず、問題でしょう。
事件の送付を受けた検察庁において、名義貸し税理士についても立件を検討すべきではないかと思います。