消費者契約法と著作者人格権不行使特約条項

少し間があいてしまいましたが、以前、

町村教授のブログ

http://matimura.cocolog-nifty.com/matimulog/2004/11/livedoor_1.html

小倉弁護士のブログ

http://blog.goo.ne.jp/hwj-ogura/e/06a0c4425df27425221d4fe758ec2098

で、上記の点について触れられていました。話題になっている著作者人格権不行使特約条項の、著作権法の観点から見た場合の有効性については、

小倉弁護士のブログ

http://blog.goo.ne.jp/hwj-ogura/e/8dfa5ad2747f8b3d5b055d57f274e4ac
http://blog.goo.ne.jp/hwj-ogura/e/1a2f75c34b9d6cb4faa0b2d8826bfe94

で取り上げられており、私も、

http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20041115#1100523525

といったことを述べたことがあります。
ただ、消費者契約法10条に照らした場合の有効性、については、一連の議論の中で、あまり触れられていないという印象があるので、若干、検討しておきたいと思います。
消費者契約法では、

(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
第10条 民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

とされています。利用規約上の著作者人格権不行使特約条項が、上記の条項に照らし無効になるかどうかが問題になります。特に、「消費者の利益を一方的に害するもの」といえるかどうかが問題になると思います。
この点について、「逐条解説消費者契約法」(商亊法務研究会)を見ると(177ページ)、

消費者と事業者との間にある情報、交渉力の格差を背景として不当条項によって、消費者の法的に保護されている利益を信義則に反する程度に両当事者の衡平を損なう形で侵害すること、すなわち民法等の任意規定および信義則に基づいて消費者が本来有しているはずの利益を、信義則上両当事者間の権利義務関係に不均衡が存在する程度に、侵害することを差す。
「一方的に」とは、本来互酬的、双務的であるはずの権利義務関係が、不当な特約によって、両当事者の衡平を損なう形で消費者の保護法益が侵害されている状況をいう。

とされています。
以前、このブログで、

著作者人格権に関するブログサービス提供者の考え方
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20041117#1100622065

という形で、若干分析したことがありますが、その中で、一定の合理的な限定を加えた上で著作者人格権不行使特約条項を設けた場合は、上記のような消費者契約法10条に関する考え方に照らし、無効とされる可能性は低いでしょう。
問題は、そういった限定に必ずしも合理性が見出しにくい場合や、何の限定も加えない場合(gooブログのような場合)ではないかと思います。
私は、そのような場合でも、消費者契約法10条に照らして、利用規約が、即、無効になることはないと考えています。なぜなら、ブログ等のコンテンツについて、利用規約上、利用者に著作権があることが明確にされている限り、利用者は将来的に自己の著作物を自由に使えるわけですし、運営者が利用者の著作物を利用し、その際、利用者が著作者人格権を行使できないことにより被る不利益を想定した場合、「両当事者の衡平を損なう形で消費者の保護法益が侵害」とまでは言い難いと考えられるからです。
ただ、そういった条項が有効である、ということは、運営者側が何をしても良い、ということを必ずしも意味しないでしょう。
ここで参考になるのが、小倉弁護士のブログ

http://blog.goo.ne.jp/hwj-ogura/e/72bf7be984a2932f347d1cf167820fb6

で紹介されている、最近の東京地裁の裁判例のようなアプローチでしょう。
小倉弁護士が、

結局、裁判所においては、著作者人格権不行使特約は一律に無効とするのではなく、その特約を含む契約が締結された事情等を勘案して、著作者人格権の侵害となりうる被告の具体的な行為に関してまで容認する意図で不行使特約を締結したと認められるかを探っていくという手法が執られているようです。

と指摘されているように、そういった特約に照らしても、利用者が到底容認しているとは考えられないような場合には、運営者の行為が適法視されない余地は残ると思います。
例えば、「はてな」の場合、プライベートモードを選択して、一定の人しかブログが見られない設定が可能ですが、そういったブログ(公表されていないと評価できるもの)について、運営者側が、そういった事情を知りながら公表した場合、無限定・包括的な著作者人格権不行使特約条項があったとしても、著作者人格権の一環である公表権の侵害になる場合があり得るのではないかと思います。また、小倉先生が

http://blog.goo.ne.jp/hwj-ogura/e/8dfa5ad2747f8b3d5b055d57f274e4ac

で指摘されているような

全くの別人を著作者として表示された場合や、当該著作物によって表現された思想または感情とは全く異なる思想または感情を表現したかのように誤解される虞が高い改変がなされた場合

についても、たとえ無限定・包括的な著作者人格権不行使特約条項があったとしても、氏名表示権や同一性保持権の侵害になり得る場合があるのではないかと思います。
以上のような解釈が、この種の利用規約上の著作者人格権不行使特約条項について、運営者の利益と利用者の利益を調和させつつ、妥当な結論を得る上で、適切なのではないかと私は考えています。