「P2Pコミュニケーションの歴史的意義」(情報セキュリティ大学院大学・林紘一郎氏)

午前の部終了後、奥村弁護士や壇弁護士らと、慶應義塾大学内で食事をしながら情報交換(?)していたので、残りの2つの個別研究報告については後回しにして、午後の部の基調講演へ。
林氏は、東大法学部卒業後、電電公社やNTTでの勤務の後、慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所教授等を経て、現在は、情報セキュリティ大学院大学副学長を務められている、ということです。
講演では、インターネットを、言語の使用開始以降の、コミュニケーションの長い歴史の中で位置づけた上、サイバースペースの特徴を
1 サイバースペースには制約がない
2 サイバースペースは忘れない
3 サイバースペースは「個」をあぶりだす
と総括し、P2Pコミュニケーションについて、賢者の知恵よりも衆愚の知恵のほうが優れているというのが民主主義と市場主義の原点であり、P2Pはそのための手段になり得るものであるが、
1 サイバーワールド用の法や倫理も、リアルワールドでの経験を踏み台にしたものでなければならない
2 リアルワールドで違法・不当なことはサイバーワールドでも違法・不当である
ことに留意されるべきであるという、非常にバランスの取れた考え方を述べられていました。
P2Pについては、注目度が高く、いろいろな議論がありますが、長所や短所をきちんと見据えた上で、関係者の努力により健全に発展する方向へ誘導して行く必要性が痛感されました。
また、林氏のような人を輩出するような、旧電電公社やNTTの人材の厚みというものには、侮りがたいものがある(これまでも侮っていませんが)という印象も受けました。
私が、講演後の質問で、京都地裁で公判中のwinny幇助公判について、「歴史的意義」といった大きな視点で、林氏がどのように見ているか、今後どのような視点で見て行くべきかををおたずねしたところ、ご自身の経験も踏まえられた上で、「裁判で著作権侵害が問題になっていることは当然のことであるが、P2Pが著作権侵害に悪用される場合がある、というのは、P2Pの機能としては、片隅のことであり、そういった見方も必要ではないか」といった趣旨のお答えをいただきました。