http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160303-00010003-doshin-soci
ロシア人男性は97年11月、船の乗組員として小樽港を訪れた際、拳銃と実弾を所持していたとして現行犯逮捕された。男性は公判で「道警の捜査協力者に『拳銃と中古車を交換する』と持ちかけられた。違法なおとり捜査だ」と無罪を主張。これに対し、捜査を担当した元道警警部らは証人尋問で「おとり捜査は無かった」と証言。札幌地裁もおとり捜査を否定し、98年に懲役2年の判決を言い渡し、男性は控訴せずに服役した。
しかし、2002年に元警部が覚せい剤取締法違反容疑で逮捕されたことをきっかけに、元警部の裁判での証言が虚偽だったことが発覚。元警部は昨年10月、ロシア人男性の再審請求審の証人尋問で、違法なおとり捜査があったとの認識を示していた。
おとり捜査は、犯罪を行う意思が全くない人をそそのかす「犯意誘発型」と、既に犯意を持っている人に実行の機会を与える「機会提供型」の2種類ある。直接の被害者がいない薬物・銃器取引などの事件に限り、機会提供型は最高裁の判例で適法な捜査として認められ、犯意誘発型は違法とされている。
再審が認められるのは、犯人と認定されたが犯人ではなかったというケースがほとんどですが、その中で異色の再審開始決定と言えるでしょう。
「おとり捜査」の違法性について述べた最新の最高裁判例では、本ブログで
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20080308/1204948777
でちょっとまとめていますが、普遍的にどの事件でも適用できる基準までは示されていないものの、適法であるためには、少なくとも①直接の被害者がいない薬物犯罪などの捜査②通常の捜査方法だけでは犯罪の摘発が困難③機会があれば犯罪を行う意思があると疑われる者が対象、という要件を満たすべきものとされています。犯意誘発型であれば直ちに違法とまで断定されているわけではありませんが、犯意誘発型は権力が犯罪を「作り出す」ものであり、捜査自体に例外的に相当高い必要性や緊急性でもない限り違法という判断を受けるでしょうし、そのような性格からして、それにより得られた証拠は、最高裁により確立されている違法収集証拠排除法則により、重大な違法があり将来の違法捜査抑止の見地から排除されると考えるのが自然でしょう。起訴自体が、違法捜査がなければあり得なかったものとして違法、無効とされることも十分あり得ます(最高裁判例ではそこを極めて限定的に捉えていますが、本件での捜査を見るとあまりにもひどく、最高裁判例に照らしても起訴が無効とされかねないものがあります)。
警察による銃器、薬物捜査のかつての暗部が白日のもとにさらされた感がありますが、その後、現在に至るまで是正される流れにはあったとはいえ、今なお、その名残り、残渣のようなものが残っていないか、改めて問われる切っ掛けにも本件がなりそうな気がします。