贈収賄事件の捜査はいかに進むか

「疑問感じる市民多い」 美濃加茂市汚職事件
http://www.chunichi.co.jp/article/gifu/20140705/CK2014070502000030.html

美濃加茂市の浄水設備導入をめぐる汚職事件で、市生涯学習センターで四日夜に開かれた「藤井浩人美濃加茂市長の潔白を信じ支える集い」。呼び掛け人の一人で可児市議の山根一男さん(57)=民主ネット可児=は「“本当に市長はクロなのか”という疑問を抱いている市民は多い」と主張する。

証拠関係に接していないので、私には黒か白か判断はつきかねますが、贈収賄事件の捜査がどのように進むのか、ちょっと紹介しておきます。
収賄は、「収賄」と「贈賄」の、いわゆる対向犯ですが、収賄側から解明されるということは、まず無くて、贈賄側の捜査が先行するものです。端緒は、風評、投書、内偵等々、様々ですが、過去にあった撚糸工連事件(東京地検特捜部が立件、起訴)のように、当初、告訴した側が捜査対象となり贈賄で立件されるといったケースもあります。
撚糸工連事件については、検索していると

撚糸工連事件、当時の容疑者と検事再会 ともに獄中から再起
http://www.hokkoku.co.jp/subpage/H20130728102.htm

という記事がありました。
贈賄側の自白があって、では贈収賄で立件、収賄側が逮捕(贈賄側も逮捕が普通ですが時効になっているなどの事情で逮捕されないこともあります)という流れになるものですが、捜査機関としては、「現職の公務員を逮捕して起訴できませんでしたでは済まない」という意識が強烈に働くもので、贈賄した者の供述は強制捜査着手前に徹底的に吟味されますし取れる裏付けも徹底的に取るものです。ただ、裏付けと言っても、賄賂の原資について明確なものがある(預金口座からの引き出し、裏金から出金したメモ等)、収賄側が、発覚を察知して賄賂金の返却を打診してきた、あるいは返却してきた(ここまでの裏付けがあればかなりのものですが)、といった、大なり小なり間接的なものにならざるを得ず、「賄賂金の授受」という核心場面は、まずは贈賄側の供述の信用性どう見るかによる、ということにならざるを得なくなります。ここが贈収賄事件の難しいところです。
収賄側の強制捜査に入り、授受を認めれば、贈賄、収賄の供述が相互に補強し合うことになり、授受の立証は楽になります。ただ、こういった難しさ故に、捜査の当初、収賄側が授受を否認すると、捜査機関としては、何とか授受は認めさせたいと焦って無理な取調べになりがちで、捜査段階で収賄側から自白が得られても、公判になって否認に転じ、自白調書の任意性、信用性が激しく争われることも少なくありません。併せて、贈賄側も否認に転じて捜査段階の供述調書の任意性、信用性が争われることもあります。
授受の認定の難しさは、例えば、上記の撚糸工連事件でも現れています。この事件では、起訴された中の、収賄側の政治家(当時の民社党代議士)が、授受を一貫して否認し、1審判決(東京地裁)では有罪になりましたが、控訴審(東京高裁)では、人目につきやすいホテルの飲食店での現金授受は不自然であるなどとして、贈賄側の供述の信用性が否定されて逆転無罪になりました(このような事実認定の在り方については、当時、賛否両論で話題になったものでした)。その後、検察が上告し、無罪判決は最高裁で破棄されて、この政治家は有罪になりましたが、金銭授受認定の難しさ、特に、収賄側が一貫、徹底して否認しているような場合の難しさを浮き彫りにしているのではないかと思います。
収賄事件では、警察が(検察庁の独自捜査で立件する場合もありますが)警察だけの判断で強制捜査に踏み切る、ということは、100パーセントなく、その前に、検察庁との事前協議を重ねるものです。その際に、上記のような慎重な検討を検察庁でも行い、上級庁(高検、必要に応じて最高検)への報告、決裁も経て、強制捜査を了承する場合は了承します(了承しない場合もありその際は捜査は不発に終わることになります)。その際に、警察に対して「起訴する」という約束はしないものですが、上記の通り、現職の公務員(選挙で選ばれた首長、議員であればなおさら)を逮捕しましたが起訴できませんでした、では、検察庁も批判の矢面に立たされますから、警察、検察の間で、収賄側が否認して自白が得られなくても、強制捜査着手時の証拠関係に大きな変更がない限り、主要な被疑者は起訴、ということが、暗黙の了解になっていたのが従来です。
ただ、最近は、

北区中学工事汚職、贈・収賄側とも異例の不起訴
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20130625#1372167947

といったケースも出てきていて、かつてのように「贈収賄の逮捕は起訴を意味する」という流れに、やや変化が生じている面もあるようです。
美濃加茂市長の事件の今後は不透明ですが、市長側が今後も否認を続けることになれば、贈賄側の供述でどこまで立証できるかという、厳しい局面になるのは確実で、名古屋地検の起訴、不起訴の判断が大きく注目されることになると思います。