南京事件―「虐殺」の構造 (中公新書)

南京事件―「虐殺」の構造 (中公新書)

南京事件―「虐殺」の構造 (中公新書)

実は、この本が最初に出た当時から買って持っていて、拾い読み程度はしていたのですが、なかなか、きっちりと読めない間に、この増補版が出て、最近になって、やっと最初から最後まで通読することができました。
著者は、全貌がつかみにくい、今なお議論が続く南京事件について、できるだけ良質な資料から参考にするという手法で、できる限り明らかにしようと試みていて、その方法論は、私のような法律家の手法に通じるところがありますし、プロパガンダや主義、主張によって事実関係を歪めまいとする姿勢も、私にとっては評価できるものでした。
著者の分類による、「大虐殺派」「中間派」「まぼろし派」の中で、著者は中間派に位置し、南京事件における軍、民間人の違法行為による死者を、計4万と推計していますが、著者も述べるように、これはマックスの数字であり、著者としても、実数はもっと少ない可能性もあると考えているようです。ただ、仮に、被害者が数千人であったとしても、当時の南京方面における軍紀が乱れに乱れ異常な状態に陥っていたこと(これは、どの立場からも、当時の資料に照らし否定できないでしょう)も含め、由々しき事態であり、軽々に片づけられる問題ではない、ということを、読み終わり率直に感じました。私自身を、敢えて位置づければ、中間派、ということになります(論争に加わるつもりはありませんが)。
事実は事実として直視しつつ、再びこういった戦争の惨禍を招かないため、平和を維持するため、何ができ、何をすべきかを、今後も考えなければならない、ということを肝に銘じました。読んでいて、決して心地よいものではありませんでしたが、通読してよかったと思います。