シンガポール在住の記者へのレクチャー

ちょっと所要でシンガポールへ来ていますが、シンガポール在住の某海外著名メディアの記者が、日本の刑事司法の現状について取材し番組を制作しようとしていて、たまたま私がシンガポールへ来る、ということで、夕方、マリーナベイサンズの近くのカフェで会って話しました。30分程度、ということになっていましたが、話し始めると、私のほうの話が長くなって、結局、2時間程度話し込むことになりました。
私からは、日本の刑事司法において捜査機関の占める役割が非常に大きく、中でも検察庁は、徹底した捜査を行い終局処分の段階で、一種の裁判官的に振る舞い慎重に起訴をするというやり方でやってきて有罪率も高く、裁判所も、そうした捜査の結果に大きく依存して判断してきたこと(それ故に有罪率も極めて高く推移してきたこと)や、そうした在り方が、最近になって、裁判員制度の導入や警察、検察不祥事の続発、冤罪事件の発覚などで国民の捜査不信が高まり、証拠収集(特に供述証拠獲得)がますます困難になる中、捜査による真相解明機能が低下し、裁判所も捜査機関に対して厳しい目を向けるようになって無罪事件も徐々に増加しつつあることなどを話しました。そうした中で、今回の遠隔操作事件が起き、真犯人の犯罪行為よりもむしろ捜査機関の不手際、失態(誤認逮捕や誤った起訴、虚偽自白まで生んでしまったことなど)への、厳しい批判が巻き起こっているのだろうという見方も示しました。
今後については、取調べの全面的な可視化や、証拠収集手段の改革(可視化により低下した部分をいかに埋めるかということも考えつつ)といったことを、大胆に進める必要があるが、ただ単に、取調べを罪悪視するのではなく、かつての吉展ちゃん事件(身代金目的の誘拐事件)で、迷宮入り寸前のぎりぎりのところで被疑者の自白から事件が一気に解決したように、良質の供述、自白の証拠としての重要性は今後も変わらず、いかに良質で信用性のある供述、自白を、人権保障とも両立させながら図って行くかが真剣に検討されなければならない、といったことも話しました。
微力ではありますが、こうしたレクチャーが、今後の番組制作に生かされ、世界の人々に、日本の刑事司法が直面する問題をリアルに理解してもらうことにつながることを願っています。