押尾被告に懲役6年求刑 女性死亡、弁護側は無罪主張

http://www.asahi.com/national/update/0914/TKY201009140137.html

論告で検察側は、女性の急性薬物中毒の症状が悪化したころまでに通報していれば救命の可能性は極めて高かったと指摘。「違法薬物の使用が発覚するのを恐れ、被告が適切な処置をとらなかったことと、女性の死亡には因果関係が認められる」と訴えた。「事件当日に2人で使用した薬物を持参したのは女性の方だ」とする被告の主張についても「死人に責任をなすりつけている」と述べた。
弁護側は、女性は症状が出始めて数分で死亡しており、必死に心臓マッサージなどを行っていた被告には通報はできなかったと反論。仮に救急搬送されても、女性のMDMA血中濃度は致死量を超え、救えた可能性は低いと主張した。「被告は反省し、これまでの報道で厳しい社会的制裁を受けた」とも訴えた。

私は、懲役10年程度の求刑ではないかと、以前から予想していたので、意外と求刑が低かった、というのが、求刑を知った時の感想でした。ただ、以下に述べるように、東京地検としても、本件特有の事情を踏まえてのことではないかと推測されます。
判決へ向けてのポイントとしては、

1 救命救急医の証言をどう評価するか(客観的な救命可能性)
2 被告人の行為の評価(特に主観面)
3 有罪となった場合の量刑(執行猶予が付されるかどうか)

といった点ではないかと思います。
1については、検察官申請、弁護人申請の各救命救急医の証言が大きく食い違っており、後者によれば、救命はかなり難しく可能性は低かった、としていて、この証言を重視すれば、客観的な救命可能性は肯定できず、そういった状況の中で、被告人が「生存に必要な保護をしなかった」とは言いにくくなるでしょう。
2については、1が肯定されたとしても、被害者の容体が急変してから死亡するまでは、1時間弱程度の時間であったようであり、そういう中で、予想外の事態に動転したであろう被告人が、客観的には不適切な行為に及んだことが肯定できても、故意を持って「生存に必要な保護をしなかった」とまで断定できるか、という問題は残ります。被告人が心臓マッサージをした形跡もあり、不適切ながら被告人としてやったこともある、という認定になった場合、有罪と断定できるかについては、微妙さを感じるものがあります。
3については、上記のような微妙さを踏まえつつも、有罪という判断に至った場合、被害者にも落ち度があった(一緒に薬物を使用していた)ことも考慮すると、3年程度の刑期となり、比較的長期の執行猶予が付される可能性も、高いとは言いにくいもののまったくないわけではないだろう、という印象は受けます。ただ、この点は、トータルの証拠関係を見た裁判官、裁判員、特に裁判員の印象によるところが、おそらく大で、検察官による被告人の悪性立証はかなり成功しているように見えますから、有罪になれば、求刑に近い、あるいは求刑通りの判決、または、可能性は低いですが、求刑を上回る判決、ということも、まったく考えられないわけではないでしょう。
先週、TBSのアッコにおまかせに聞かれた際は、保護責任者遺棄致死罪の有罪可能性90パーセントと答えたのですが、上記の1及び2の点に照らすと、70パーセントから80パーセント程度かな、というのが率直なところです。
判決の結果が注目されると言えるでしょう。