http://www.asahi.com/national/update/0406/TKY201004060265.html
最高裁は、殺人などの罪で死刑が確定した奥西勝死刑囚(84)の再審を認めるべきかどうかの判断を改めて名古屋高裁に差し戻す決定をした。5日付。第三小法廷(堀籠幸男裁判長)は「犯行に使われた毒物の解明について、審理が尽くされていない」と述べた。
いったん認められた再審開始と死刑の執行停止を取り消した名古屋高裁の決定を、改めて取り消した形になる。事件発生から半世紀。最終的に再審を認めるべきかどうかは、毒物の成分をめぐる科学論争に絞って、さらに同高裁で審理が続くことになった。
本件については、再審開始決定について、
名張事件第7次再審請求審 再審開始決定(要旨)
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20050406#p1
異議申立に対する取消決定について、
再審開始決定取消す 名張毒ブドウ酒事件で名古屋高裁
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20061226#1167101373
とコメントしたことがあります。
再審開始決定について、私としては、
使用された毒物が、確定判決認定の「ニッカリンT」であったことについて合理的な疑いが生じていることと、犯行の機会が確定判決認定の機会以外にもあり得たのではないかという合理的な疑いが生じていることが、この決定が出る上では決定的であると思います。
と見ていて、取消決定では、上記の取り消しの際のエントリーで引用したように、
最大の争点は、事件の農薬が、奥西死刑囚が自白し、確定判決が凶器と認定したニッカリンTだったかどうか。ブドウ酒の飲み残りからニッカリンTに必ず含まれる成分が検出されなかった理由などが争われた。異議審は今年9月、この問題で弁護団の鑑定をした2教授を証人尋問。そして「ニッカリンTが混入されてもこの成分が検出されないことはあり得る」などとして、検察側の主張を認めた。
とされましたが、最高裁としては、使用された毒物について、確定判決の認定に対する合理的な疑いが払拭できないという心証を持ちつつ、再審開始決定まで踏み切る前に、その点に関する検察官の立証を尽くさせておく必要があるという、非常に微妙な判断を示したのではないかという印象を受けるものがあります。
最高裁がどのような心証を抱いたかは、決定を見ないと何とも言えませんが、今となっては検察官の補充立証で、合理的な疑いが払拭できない可能性も高く、そうなれば、本件は必然的に再審へと動いて行くことになるでしょう。
追記1:
<名張毒ぶどう酒事件>再審の可能性も…最高裁が差し戻し
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100406-00000036-mai-soci
小法廷は「混入されたのがニッカリンTではなかったのか、濃度が低く成分の反応が弱かったために成分が検出されなかっただけなのか、高裁が科学的知見に基づく検討をしたとは言えない」と指摘。ニッカリンTを使って捜査段階と同じ方法で鑑定を行い、審理を尽くすよう求めた。
そのような鑑定を行うことで、確定判決で認定されたニッカリンTの使用という認定に、合理的な疑いを入れる余地がないと言えるかどうかが問題になりますが、それができるのであれば異議申立審の決定までに、検察官が行っているのではないかと思われ、印象としては、再審へ大きく傾いた最高裁決定ではないかと思いますね。
追記2(平成23年3月18日):
上記の最高裁第三小法廷平成22年4月5日決定ですが、判例時報2090号152頁以下に掲載されていました。
一通り読んでみましたが、要するに、重要な争点について、追記1でコメントしたように、科学的知見に基づく検討が行われるべきであるとしたもので、再審へ大きく傾いたものではないにしても、その点について最高裁が重大な関心を抱いたことはうかがわれるように思いました。
既に、決定から1年近くが経過していますが、その後の名古屋高裁での審理状況が気になるところです。