死亡の結果重視、捜査継続=「譲渡立証」で解明図る−押尾容疑者再逮捕で警視庁

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100104-00000036-jij-soci

同課が注目したのは、声を上げるなどの異変が生じた後、歯を食い縛るなど容体が急変してから119番されるまでに少なくとも約3時間が経過していた点だった。
複数の専門家から意見を聞き、すぐに通報していれば田中さんの生存がどの程度可能であったか捜査。保護責任者遺棄や同致死容疑での立件を目指した。
捜査の過程で、関係者の証言から、同容疑者がほかの女性に薬物を渡していた疑いが浮上。同容疑者の「MDMAは田中さんからもらった」との主張は虚偽である可能性が出た。
捜査幹部は「押尾容疑者が田中さんにMDMAを渡していた場合、保護すべき責任の度合いが強まる。譲渡の立証が必要となった」と説明する。

私自身は、9月の時点で、

押尾被告立件へ 女性死亡本格捜査、処置に違法性の疑い
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20090919#1253321555

今後、特に問題になるのは、女性がどの時点で死亡したのか、死亡に至る経緯の中で救命のため何ができたのか、ということでしょうね。体調に異変が生じた後、死亡するまでの時間がごく短時間であったとすれば、遺棄、あるいは不保護という行為と「致死」との間の因果関係が認められない上、観念的、抽象的には遺棄、不保護と言えても、どこまで違法な行為と言えるのか疑問が持たれてきます。起訴価値という問題もあるでしょう。
それに対し、体調の異変が生じてから死亡まで、一定時間(30分、あるいは1時間程度以上とか)が経過し、かつ、その間に適切な救命措置が講じられていれば救命できた蓋然性が相当程度高い、ということになれば、保護責任者遺棄致死罪、少なくとも保護責任者遺棄罪(因果関係の認定上「致死」までは問いにくいとして)認定の余地が出てきます。

とコメントしていたのですが、適切な措置を講じていれば救命できた可能性という点について、各種捜査の結果から、かなりの蓋然性が認められたということなのでしょう。捜査の中では、司法解剖の結果が徹底的に分析されただけでなく、この種の急性薬物中毒について、複数の専門家が意見を求められているものと推測されます。そこでは、救命できた蓋然性ということが肯定されているのでしょう。
捜査機関が慎重の上にも慎重を期していると感じるのは、「本件」の前に、MDMAの譲渡で身柄をとり、他の関連被疑者についての取調べも行った上で、本件で再逮捕しているということで、上記の記事にあるような保護義務の裏付けという点も含め、万全の態勢で臨んできている、という印象を受けるものがあります。
この罪名で起訴されることになれば、裁判員裁判ということになりますが、否認事件になった場合、複数の専門家が出廷、証言することになる可能性が高く、専門性が高い話が次々と出てくるだけに、裁判員にとってはかなりハードな裁判になる可能性があるでしょう。

追記:

各方面から聞かれることは確実なので、予想される(起訴されていないのであくまで仮定の話ですが)求刑、量刑について、先行して書いておきますが、年末に起訴されたMDMA譲渡の件と、今回、再逮捕された保護責任者遺棄致死の件は、既に執行猶予付きの有罪判決が宣告されたMDMA使用の件という確定判決前の余罪になるため、前の確定判決の事件の際に同時に審判される抽象的な可能性があった、という前提のもとで求刑、量刑が決定されることになります。
MDMA譲渡、使用だけなら懲役2年程度(確定判決は使用のみで懲役1年6月・執行猶予付き)ですが、問題は保護責任者遺棄致死をどう考えるか、でしょう。検討の基本になるのは傷害致死の求刑、量刑ではないかと思われますが、積極的に暴行を加えたわけではないことや、被害者側にも薬物をともに使用した落ち度があること等を考慮し、薬物に対する親和性、常習性が認められることや否認し反省の態度が見られない、といった事情も加味して、懲役10年程度、というところでしょうか。併せて1本、ということで、確定判決の際に同時に審判されていれば求刑として懲役10年程度、既に懲役1年6月の執行猶予付き有罪判決が確定していて、実刑になればこれは取り消されるので、その分は引いて、求刑としては懲役8年程度、というあたりではないかと、あくまで現時点でのものですが、私は予想しています。裁判員裁判ですから、求刑通りの判決、ということも可能性としてはありますが、量刑としては懲役6年から8年というあたりでしょうか。