本日の模擬裁判(青山学院大学)

今日、午前中から夕方まで、青山学院大学で行われた模擬裁判に、裁判官役として参加しました。
「市民の裁判員制度・つくろう会」

http://www.saiban.org/

の主催で、今日の模様は、来年5月頃に日本評論社から発行予定の裁判員制度に関するブックレットに掲載予定とのことです。
私は、元々、裁判員役をやってみたいということで申し込んだのですが、裁判官役はどうですか、と言われ、裁判官役でも、裁判員裁判を模擬とはいえ経験できることに変わりはないので、ありがたくお請けすることにしました。裁判長は、某高裁の現役刑事裁判官が務め、私は右陪席、別の弁護士が左陪席となりました。
裁判員選定手続を経て、6名の裁判員が選出された後、審理が始まりました。起訴罪名は、危険運転致死で、会社員が勤務後に同僚とともに飲酒し、会社駐車場に置いていた自車に乗って帰宅途中、横断歩道を横断しようとした歩行者をはねて死亡させた、という事故に関するもので、問題点は、①当時の被告人が「アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態」(刑法第208条の2第1項)にあったかどうか(その点に関する被告人の故意を含む)②有罪になった場合に量刑をどうするか、ということでした。
2時間余りの審理の後、昼休みをはさんで評議に入りましたが、審理を終えた時点での私自身の心証は、危険運転致死罪の成立は認定できるものの、量刑については、執行猶予がつく余地はないものか、と迷っている状態でした。
評議では、まず、上記①の問題点について検討が行われましたが、6名の裁判員の方々が、私が予想していた以上に、よく見て、よく検討されていて、裁判長が丁寧に評議をリードしていたこともあって、実のある検討を行うことができたと思います。結局、3名の裁判官を含め、肯定する立場が多数を占めました。
続いて、量刑の検討に入りましたが、検察官の求刑が懲役10年だったのに対し、当初の裁判員の意見では、下は執行猶予付きから上は懲役10年まで、かなりの幅がありました。私自身は、懲役3年、執行猶予は4年から5年程度にする余地はないか、と考えていましたが、一通り議論した後に、配布された同種事件の量刑資料を見ると、執行猶予が付されたものはなく、下は懲役3年6月であり、これは執行猶予を付すことは難しい、と考えざるを得ませんでした。私自身は、同種事例を参考に、懲役5年という意見を述べましたが、裁判長も懲役5年という意見でした。裁判員には、量刑資料を見た後、懲役4年という意見の人が多く、結局、量刑については懲役4年(実刑)ということになり、判決宣告となりました。
私自身、裁判官役を務めるのは、司法修習生の時の模擬裁判以来で、感じたのは、やはり、人を裁くというのは大変なことだ、ということでした。当事者も大変ですが、ただ、刑事事件について言えば、検察官は攻める、弁護人は守る、ということで、自らの役割、テーマがはっきりしており、迷いがあまり生じない面があります。しかし、裁判官は、模擬裁判の裁判官役であっても、有罪か否か、刑を重くあるいは軽く、という異なる方向を行きつ戻りつしている感じで、神経の使い方が当事者とはかなり異なるという気がしました。
また、感じたのは、裁判員もなかなかやるな、ということで、裁判官が、頭ごなしにモノを言ったり押さえつけたりせず、懇切丁寧に対応し、良い意味でうまくリードすることで、自由闊達な意見交換が行われ、適正妥当な結論に到達できるのではないか、という印象(期待も含め)も持ちました。
今回の模擬裁判の事件では、裁判員が入らず、裁判官のみで評議を行っていれば、おそらく、危険運転致死罪の成立を認め、量刑は懲役5年の実刑になったと思われますが、裁判員も含めた評議の結果として、懲役4年という点が変わっただけで、大きな違いまではなく、ほぼ適正妥当な結論に到達できたと思います。
非常に貴重な経験ができ、勉強になった1日でした。関係者の皆様、ありがとうございました。