「小説帝銀事件」

 

アマゾンのオーディブルで出ているのが目につき、そう言えば通しできっちりと読んだことはなかったなと思い、落として通しで聴きました。

感じたのは、犯行時(余罪を含む)にかなりの数の目撃者がいるにもかかわらず、平沢が犯人と似ているという程度でしかないもの、似ていない、別人であるとするものがかなりの数いて、平沢が真犯人であるならば、ここまでバラバラの供述が出るのは理解に苦しむものがあると思いました。

また、これも繰り返し指摘されてきたことですが、犯行からうかがわれる犯人像が、薬物に精通した、その取り扱いに手慣れた人物であるのに対し、平沢は著名な画家ではあっても薬物には全くの素人であり、犯人像との齟齬も気になりました。

本書では、帝銀事件当時の平沢のアリバイ問題についても詳しく紹介していて、犯行直前に親族が勤める会社へ行って雑談して帰っていったというものでアリバイの成否については微妙さがあるのですが、そもそも、これから大量殺人を決行しようとしている人物が、直前に親族勤務の会社へ特に用もないのに行って雑談して帰るという行動が、犯人のものとしては違和感がありました。

帝銀事件の直後に平沢が大金を所持し、その出所を合理的に説明できないなど、犯人性につながる証拠関係は確かにあるものの、十分な解明がされているとも考えにくく、もやもやとしたものが読後に残りました。