http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20130510-00009332-president-bus_all&p=1
冤罪事件であるにもかかわらず、なぜ示談する必要があるのかにつき依頼者である被疑者としては釈然としない点が多いのは理解したうえで、依頼者に認めさせる内容は「意図的に触ったのではなく、あくまでも触れただけ」とすることがポイントです。つまり、故意のわいせつ罪ではなく、あくまでも「過失に基づく損害賠償」の形で事件を終わらせるのです。
とにかく捕まった以上は、ほぼ100%有罪になることを覚悟し、グレーの決着を目指すべきです。私の知る限りでも多くの人が、痴漢で捕まっても会社にバレずに通常の市民生活に戻っています。
端的に問題点を指摘しておきます。
まず、「とにかく捕まった以上は、ほぼ100%有罪になることを覚悟し」とありますが、やっていない、だから否認する、という状態で、処分保留で釈放され不起訴になる、というケースは珍しくはありません。私が検察庁にいた当時もそういうケースはありましたし、痴漢冤罪事件が続出した後、そういった不起訴事例は増えこそすれ減っていないはずです。捕まればやっていなくても有罪、という前提は誤っています(そういうリスクはありますが)。
弁護人が、やっていない被疑者に「意図的に触ったのではなく、あくまでも触れただけ」と「認めさせる」ということは、嘘をつかせる、ということになります。それで示談が成立して不起訴になり会社にもばれずに済む、となれば、1つの小さな成功(?)かもしれません。しかし、そこには大きな問題があります。検察官としては、被害者の供述を前提に被害状況、犯行状況を見ますから、そこに、「触ったのは間違いない(過失だが)」という被疑者供述が加わることで、被害者供述は補強され裏付けられることになります。そうすると、いくら過失だったと主張しても、それは故意に基づく行為であったと評価される可能性が出てきます。私の経験上も、こういった「外形事実」が被害者、被疑者双方の供述により認定できると犯罪事実の認定がしやすくなったものでした。その状況で、示談に失敗して告訴取り下げに持ち込めなければ、そのまま起訴される、という大きなリスクが生じてしまいます。公判段階で、あれは弁護士に認めさせられた、本当は触っていない、と言っても、弁護士と協議した上でついた嘘ですから、覆すのはかなり困難でしょう。
否認(本当にやっていないなら否認するのが当然ですが)の状態で示談を目指す、という刑事弁護は、なかなか難しいものですが、そこは、弁護士が知恵を絞りながら、被害者と接触しつつ着地点を見出すようなことも不可能ではありません。私も、かつて、強姦事件で、被害者は強姦の主張、被疑者は和姦の主張という状態で、高めの示談金支払を条件に示談に持ち込んで告訴取り下げ、不起訴に持ち込んだ経験がありますが、無理に認めさせて示談に至らなければ、そのまま起訴されていた可能性もあったわけで、今振り返っても、あの時認めさせておくべきだったとはまったく思いません。
いろいろな弁護士がいろいろなことをメディアで言って、私自身もその立場で批判を受け得るわけですが、上記の記事は、かなりリスクのある被疑者の対応、弁護人の活動について、リスクがわかりにくいまま掲載されているので、気になりコメントした次第です。