- 作者: 堀川惠子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/03/29
- メディア: 単行本
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ちょっと前にNHKで、本書で取り上げられている事件に関する番組が放映されていて、関心は持ちつつも観られずにいたのですが、先に本のほうで読むことになりました。これも、高松への行き帰りと空き時間で一気に読みました。番組のほうも、是非、観たいと思っています。
いわゆる永山基準が出る前の事件で、昭和20年代から30年代には多かったようですが、被害者1名の強盗殺人で死刑判決が確定していて、確定後、3年程度で刑が執行されています。現在ならば死刑にはならず無期懲役刑に処せられるでしょう。長期の服役にはなっても、収容中の態度は真摯な人であったということですから、仮釈放は認められて、静かに余生を送りひっそりと生涯を終える、ということになったのではないかと思います。死刑に関する基準、尺度が、今よりも大きく異なり、死刑という究極の刑罰であっても、人による評価を経る以上、時代の中で基準、尺度が変わり、大きくぶれがでてきてしまうということに、割り切れなさ、後味の悪さを感じずにはいられませんでした。
高裁、最高裁で事件を担当した弁護士が、前に、
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20090411#1239451559
とコメントしたことがある中野正剛事件で勾留請求を却下した小林健治元裁判官であったことは、本書を読むまで知らず、驚くとともに、結果は死刑になったとはいえ、こういう優れた法律家によって弁護される機会が得られた被告人(死刑囚)は、その点では幸運であったように感じられました。
本書では、東京拘置所が池袋から小菅へ移転した当時の、死刑囚に対する処遇実態(小鳥が飼えたり食事等で優遇措置があるなど現在とはかなり異なっている)や、戦前から戦中、戦後の激動、貧困の中で生き、死んだ死刑囚の家族の知られざる歴史も、丹念な取材に基づき紹介されていて、深み、厚みのある良質なノンフィクションとしてかなりの読み応えがありました。
刑罰というものは、いかにあるべきか、現在の在り様が正しいのか、常に疑問や議論の中で漂い続けざるを得ない宿命の中にあるものですが、そうした難しい刑罰というものを、答えは出ないものの、考える上で、良質な材料を、本書は提供していると思います。この分野に関心を持つ人にとって、読むべき1冊と言えるだろうと、読了後に感じました。