- 作者: 朝日新聞取材班
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2011/03/18
- メディア: 単行本
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私は、朝日新聞を購読していて、この事件に関する朝日の記事は、一通り読んでいるので、この本を読んでいて、事件そのものについて特に目新しさといったことは感じませんでしたが、スクープ記事になるまでの経緯や、記者が逮捕まで意識して慎重の上にも慎重に動いていた様子などは、興味深く読みました。この事件は、今後、近いうちに元特捜部長、元副部長の公判が始まるはずですが、その前に読んでおいたことで、頭の中が整理できました。
先日、元大阪地検次席検事であった玉井英章氏(以下「玉井さん」)が急逝し、永遠に、この事件について話を聞く機会がなくなってしまいましたが、私自身、玉井さんが犯人隠避行為にまで及んでいたは今でも思ってはいない(もちろん、証拠により今後、どういった認定になるかはわかりませんが)ものの、フロッピーディスクの改ざんという、重大な、あってはならないことが起きた時の次席検事の対応として、いかにも不徹底なことしかできなかったのは間違いなく、そこには、幹部検察官として大きく欠けるところがあるとともに、その根底には、事を荒立てたくない、何とか穏便に済ませたいという、日本の組織や組織人が従来根深く抱えてきた隠ぺい体質もあったのではないかと考えてきましたし、今でもその考えは変わっていません。私が大阪地検次席検事の立場にあれば、特捜部長からどういった報告があったにせよ、前田検事(当時)本人だけでなく、揉め事が起きているという、関係者の検事から自ら直接事情を聞き、徹底した調査に基づいて方針を決めていたと思いますし、当時、玉井さんから相談されていれば(あり得ないことではありましたが)、そのようにアドバイスしたと思います。犯人隠避行為に及んでいなかったとしても、そういった徹底した対応をしなかった点で、心の中で、もしかしたら故意の改ざんかもしれないがそれを暴き立てるのは得策ではない、という気持ちが存在した可能性はあるでしょう。そういった問題点(そのような気持があったかどうかはともかくとして)について良く分かっていたのは、おそらく玉井さん自身で、そういった自責の念が、結局は死期を早めてしまったのではないかと、今の私は考えています。
いつの日か、静かに語り合える機会が来たら、真相は何だったのか、どういった思いで対応していたかについて、じっくりと話が聞きたかったのですが、その機会も永遠に失われてしまいました。
今後、元特捜部長らの公判がどういった展開になるかはわかりませんが、この本で紹介されている最高検の見立てや、予想される証拠構造(前田元検事の供述を中心に、関係する検事の供述や証拠物が支える)によれば、元特捜部長らとしてはかなり苦しい公判になるのではないかという印象は受けます。今後の推移を注視したいと思います。