弁護士資格等がない者らが、ビルの所有者から委託を受けて、そのビルの賃借人らと交渉して賃貸借契約を合意解除した上で各室を明け渡させるなどの業務を行った行為について、弁護士法72条違反の罪が成立するとされた事例

最高裁第一小法廷平成22年7月20日決定ですが、判例時報2093号161頁以下に掲載されていました。
弁護士法72条における「その他一般の法律事件」については、判例時報のコメントでも紹介されているように、「事件性」を要するかどうかに争いがあり、従来の刑事裁判例では、事件性を必要としつつも緩やかに解していたところ、法務省が平成15年に示した見解で、争いや疑義が具体化または顕在化していることが必要という、事件性について厳格に解するかのような立場が示されたことから、グレー感が強まっていたような状況にはあったと言えると思われます。そこで示されたのが本決定における判断で、最高裁は、本件の事案に即しつつ、「交渉において解決しなければならない法的紛議が生じることがほぼ不可避である案件に係るものであったことは明らか」として、その他一般の法律事件に該当するという判断を示しています。
判例時報のコメントでは、本決定について、

本決定のこのような判示は、事件性のような要件を全く必要としないとする立場には立っておらず、争いや疑義が具体化または顕在化していることまでは要しないとしても、事件性必要説に親和的な立場と理解できるように思われる。

と評価していますが、事件性を要するとしつつも上記のような法務省見解ほど厳格な事件性は要しないと見ていることは明らかで、今後、事件性についてどこで線引されるかについては、事案の集積の中で徐々に明らかにされるべきものと考えられているのではないかという印象を受けます。グレー感はなかなか払拭できませんね。
72条の問題は、例えば、企業で働く法務部員が、有償サービスとして、子会社や関連会社に関する法務をどこまで担当できるかといったことを考える上で、その解釈の影響は小さくなく、今後の議論の中で、この決定が参考にされる機会が出てくるのではないかと思われます。

追記:

判例評論第645号61ページ(判例時報2160号207ページ)伊藤 司