責任能力判断『社会の流れで変容』 精神鑑定退け実刑判決 東京高裁

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2009052602000056.html

この裁判では最高裁が昨年四月、鑑定結果を退けた高裁判決について「精神医学の専門家の鑑定は公正さに疑いがあったり前提条件に問題があるなどの事情がない限り、十分に尊重すべきだ」との初判断を示し、審理のやり直しを命じていた。
差し戻し審では、鑑定結果と異なる判断を裁判所が示すことの是非が争われたが、中山裁判長は「責任能力の判断は、時代の推移や社会の流れの中で変容する可能性があり、裁判員に意見を求める意義もこの点にある」とし、鑑定結果を含め総合的に判定すべきだと指摘した。
一審で責任能力のない「心神喪失」とした鑑定結果について、被告が犯行翌日に自首したことなどを踏まえ、「犯行時の状態は心神喪失ではなく、心神耗弱にとどまる。鑑定には大きな疑問がある」と退けた。

http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20081022#1224638162

でコメントした最高裁判決後の差戻審判決ですが、最高裁と差戻後の高裁の判断が真っ向から食い違っている可能性が高いように思われます。
統合失調症(以前は精神分裂病)罹患者の責任能力については、伝統的な司法精神医学では心神喪失とする傾向がありましたが、一律に心神喪失とすべきではなく状態によっては心神耗弱を認定すべき場合もあり、何が責任無能力で何が限定責任能力かについては、犯行時及びその前後の被疑者、被告人の状態を総合的に見て判断すべきである、という考え方が、今では裁判、検察実務上は定着していると言っても良いでしょう。ただ、精神医学の分野では、様々な意見が併存していて、鑑定を依頼すると、その鑑定人の考え方が色濃く反映されますから、裁判所、検察庁の立場からは、かなり不満が残る鑑定結果になることもあります。
とはいえ、裁判所、検察庁は精神医学の専門家ではなく、そうであるからこそ鑑定を行っているわけで、気に入らないからこの鑑定は採用しない、と安易に排除してしまうようでは、何のための鑑定か分からず、やはり、専門家の意見は尊重しましょうね、というのが上記の最高裁判決が言わんとしているところだったように思います。
最高裁と高裁で判断が分かれるようでは、裁判員が判断すればどうしてよいかわからず混乱するのは目に見えていて、裁判員制度が抱える数ある問題点の中でも、特に、今後、大きく問題になり現場を耐えがたい混乱に陥れることになりそうです。

追記:(平成21年12月2日)

判例批評(浅田和茂)判例時報2054号・判例評論610号185ページ