共謀の解消・共謀からの離脱について

共謀罪に関連して、

1 一旦、成立した共謀がその後解消された場合の刑事責任
2 共謀に関与した者が共謀関係から離脱した場合の刑事責任

ということが問題になっています。
まず、1ですが、従来の刑法理論では、予備罪・陰謀罪に対する中止犯規定の準用の可否、が論じられています。判例は否定しますが、有力説は、中止犯規定の準用を肯定し、刑の免除も可能と考えます。
また、2について、従来の刑事実務の中で形成された考え方では、一旦、共謀に加わっても、共謀から離脱する意向を表明し、他の共謀者がそれを了承した場合(勝手に脱けるだけでは駄目ですが)、共謀からの離脱が認められ、その後、他の共謀者により犯罪が実行されても、離脱者は共謀共同正犯としての責任は問われないものとされています。
しかし、現在、検討中の共謀罪を巡っては、共謀者が自首した場合の減免規定はあるものの、実行まで至らず中止した場合についての規定はなく、また、共謀が成立すれば犯罪は成立し、「離脱」という観念を容れる余地はない、と考えられているようです。
そこで、本当にそれでよいのか、ということが問題になります。
この問題については、共謀罪の罪質、法的性質をどう考えるか、ということも影響してくるように思います。一種の公共危険犯(公共に対する危険を発生させている)と捉えれば、一旦、共謀が成立している以上、公共危険が発生し、十分可罰的であって、中止、離脱による刑の減免(特に免除)の余地は認められない、という考え方もあり得ます。
ただ、従来の考え方との整合性、という観点からは、犯罪の実行へ向けて、決意(内心にとどまる限りは不処罰)、共謀、各種準備、実行の着手、結果の発生、犯罪後の行為へと進む中で、従来は基本的に不処罰であった共謀まで処罰範囲を広げようとするものですから、共謀だけ取り上げて公共危険罪とし、その後、犯罪として進行することにより、各犯罪のそもそもの罪質に応じて性格が変容して行く(個人的法益に対する罪など)というのも、奇異な感じがします。
上記1及び2のうち、中止犯規定の準用は、従来の議論にあっても、理論的な問題というよりも、むしろ政策的な問題であり、予備・陰謀行為を行ったとしても実行に移さず中止した者に、特に刑の免除の余地を与えることで、一種の「引き返すための黄金の橋」を作っておいて、犯罪が実行に移されることをできるだけ防止する、という考慮によるものでしょう。そのことは、共謀罪にもあてはまるものであり、政府答弁のように、中止犯規定の準用、といったことを一切考えない、刑の減免がほしければ自首しろ、それ以外は一切認めない、というのは、一旦、共謀してしまった者を犯罪実行へと追い込むことにもなりかねない、危険なことだと思います。この点は、共謀罪成立がやむを得ない場合にあっては、是非、再考されるべきでしょう。
また、2についても、共謀者中のある者(単独、複数)が共謀関係から離脱することにより、共謀自体が一種の崩壊状態になり(共謀の本質は「相互利用補充関係」ですから、そういった関係が一旦崩れると立て直せない、ということも多いはずです)、犯罪実行に至らずに済む、という、治安の観点からは好ましい自体に結びつく可能性があります。やはり、ここでも、「一旦、共謀が成立した以上、犯罪は成立している、離脱はあり得ない」などという、杓子定規なことは言わず、犯罪防止という政策的観点から、共謀罪について、その成立がやむをえない場合であっても、共謀から離脱した者(離脱については、上記のような、従来、形成されてきた要件が妥当するでしょう)については刑を減免するという規定を盛り込んでおくのが適当だと思います。
結局、1及び2の問題を包括する形で、共謀したものの実行には移さず中止した場合、あるいは、共謀関係から離脱した場合には、刑を減免するという規定を、共謀罪成立がやむを得ない場合には作っておく、というのが、犯罪防止等の観点からは望ましいと私は考えています。