判決期日

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を読んでいて、ある判決の時のことを思い出していた。事件自体は、ありふれたもので、被告人・弁護人が無罪を争っているわけでもなく、ただ、執行猶予がつくかどうかが微妙な事件であった。私は、公判に立ち会っていた検事で、判決は実刑(執行猶予がつかなかった)で、検事の私は、立証活動が奏功したという思いで、それなりに満足感に浸りながら判決を聞いていた。法廷を出ると、被告人の妻が、法廷の外のベンチに一人座り、両手で顔を覆って泣いていた。夫に執行猶予がついて、自宅に戻ってくるのを心待ちにしていたのだと思った。こういう仕事をしていると、心が痛むことは少なくないが、その時は、かわいそうなことをしてしまった、と思い、非常に心が痛んだ。近寄って、少しだけ声をかけたような気もするが、そのあたりは記憶が曖昧である。
確かに、被害者は、理不尽な犯罪の被害にあって、心身共に傷つき苦しんでおり、そういった被害者の立場に立って、検察官が犯罪、犯罪者を厳しく糾弾するのは当然のことである。ただ、苦しんでいるのは被害者だけでなく、自業自得とはいえ被疑者・被告人も大きな重荷を背負っているし、被疑者・被告人の家族も、また苦しんでいる場合が多い。
検察の道を歩んでいる人々、特に若手の人々には、いろいろな苦しみ、悲しみが錯綜する中で、あの検事に取り調べてもらって良かった、あの検事に公判でこのように言ってもらって救われた気持ちになった、もう一度やり直そうと思った、といった、そういう検察活動を目指していただきたいものだと思う。