ロースクール教員としての感想

今年の4月から7月まで、某ロースクールで、実務家教員(非常勤)として刑事法関係の科目を担当し、先月から今月にかけては、正規の講座外で、刑事訴訟法の基本書読み込み・論点整理ゼミも数回にわたり行いました。私の担当は、これにて終了で、来年度、依頼があるかどうか不明なので、これでロースクール教員としての経験は終わりかもしれません。
上記のような経験を踏まえて感じるのは(私が行っている某ロースクールのこと、ではなく、いろいろと話を聞いている他のロースクールも含めた日本のロースクール全体についてです)、やはり、従来型の司法試験制度、その後の1年半から2年の司法修習制度のほうが、法曹教育としては完成度が高く、現在のロースクール制度が、それに匹敵するものになるのは、おそらく無理だろうということです。
ロースクールでは、実務、実務と言いますが、実務家になる前提として、法律の解釈論がきちんとできなければ、良い実務家にはなれませんし、実務家になっても、良い仕事はできないと思います。法律の解釈学の勉強というのは、本質的に、地味なコツコツとした勉強をそれなりの期間、継続できないと、身に付かないもので、従来の司法試験は、そういった勉強をした人の中で、司法研修所で学ぶだけのレベルに到達した人を選抜する、という機能を果たしていました。そして、いろいろと批判はありましたが、それなりに成功していたと思います。
従来の司法試験で、最も問題があったのは、司法研修所の収容態勢の限界から、私が合格したころは、毎年、500名程度しか合格者が出せず、その後、徐々に合格者が増えてきたとはいえ、絶対的な合格者数が少なすぎるという点にありました。
しかし、こういった問題も、日本全国の高裁・高検所在地に司法研修所の分室を置き、全国の法曹の協力を得るといったことにより、3000名程度の司法試験合格者を収容することは、それほど多額の公費を費やさなくても、十分可能であったと思いますし、そのような方法によれば、従来の法曹養成制度のノウハウを最大限活用することもできたわけです。
現在のロースクールの態勢では、質の良い教員(研究者、実務家の双方とも)が少なく、学生に対して、十分な教育が施せない上、「ロースクールのカリキュラムをきちんとこなしていれば、よほどのことがない限り、司法試験には合格できる」という状況にもないため、学生が浮き足立ち、ロースクール側が、浮き足だった学生を沈静化できるだけの教育内容を提供することもできないため、学生としては、行き先を見失った船に高い料金を支払って乗ってしまった乗客のような状態になってしまっており、どこに行くかもわからず、だからと言って降りることもままならないという、非常に困った状態に陥っていると言っても過言ではないと思います。
もう、今となっては遅いかもしれませんが、

1 ロースクールは、極めて良質のもの(10校程度)を除いて廃止し、新ロースクールは、法曹界の中核を担う特に優秀な人材の養成機関とする。入学者は、司法修習終了後、一定の期間、実務を経た者とする。廃止されたロースクールのうち、可能なものは、従来型の法学部に転換するか、既存の法学部に吸収する。
2 全国の高裁・高検所在地に、司法研修所分室を置き、司法修習生3000名程度を受け入れ可能な態勢を作り、修習期間については2年に戻す。
3 司法修習生については、「弁護士補」といった資格を新設し、有料の法律相談や弁護士と共同による事件処理などを可能にして、一定の収入を確保できるようにした上で、給費制については、給費水準を従来よりも落としつつ維持する。

といった方法を提案したいと思います。