坂本龍馬ににしても高杉晋作にしても、司馬遼太郎作品を始めとする「作品カッコを通じてのイメージが先行しがちですし、戦後に至るまでは、様々な思惑を持たれつつ、彼らをヒーローに祭り上げようという動きもあって(それも本書では紹介されていますが)、そういった虚像に対する「実像」がつかみにくくなっている面があります。そう感じているところだったので、本書を読んでみました。
著者が、史料に基づき、手堅く両者の軌跡を追っていて、これが実像なのだろうというものが見えてくる気がしました。特に坂本龍馬については、薩長同盟、大政奉還の際の、イメージされている劇的とも言える役回りが、どこまで史実なのか、かなり曖昧であることが改めて認識できました。明治維新後、不遇になりがちだった旧土佐藩勢力が、ことさらに坂本龍馬を英雄として祭り上げ、さらに、戦後の「龍馬がゆく」ブームがそれを増幅した側面を、やはり考慮せざるを得ないように思いました。
どういうイメージを描くかは各人の自由ですが、何が史実であり実像であるかという視点も重要で、その意味で、読んでおいて良かったと思いました。