ID管理は業務外 三菱UFJ証券、元部長代理を告訴へ

http://www.asahi.com/national/update/0411/TKY200904110233.html

情報は刑法で定める「財物」に当たらず、元部長代理は持ち出したCDも返却していることから、警視庁は窃盗罪での立件は困難とみている。不正アクセス禁止法違反の罰則は1年以下の懲役または50万円以下の罰金と比較的軽いため、ほかに該当する罪がないか検討している。

以前、

http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20070319#1174275969

でもコメントしましたが(その件では横領罪が問題になっていましたが、持ち出す財物が他人占有か自己占有かが異なるだけで問題点は共通)、こういった態様で、記憶媒体を社外に持ち出し、その後、返却したケースについて、持ち出したものが「他人の物(自分の物ではなく)」であれば、不法領得の意思を含む窃盗罪の構成要件に該当するというのが確立した考え方で、上記の記事内の警視庁の見方がどこまで正確に伝えられているかどうかはわかりませんが、本当にそう考えているのであれば、それは間違いですね。
ただ、最近、不勉強で不熱心なおまわりさんというものが、世の中にこれほどウイルスのようにまん延しているんだな、ということが改めて実感されているので、本当にそういった誤りを平気で犯している可能性もあるでしょう。窃盗罪による立件を困難にする事情として、持ち出したCDが既に残っていないことで、窃盗罪の立証上、支障があるという考え方はあり得ます。
また、この種の事案について、私も、何度か検討したり、告訴状を作成して提出、受理されたりしたことがあるのでわかるのですが、犯行時期を特定するのが困難な場合が多く、特定を被疑者の自白に依存しがちな側面があって、そういった事情を捜査機関が嫌がる、ということもあり得ると思います。
「ほかに該当する罪」というと、背任罪が考えられますが、情報窃盗というものが不可罰の状態にある中、

http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20070407#1175910936

でもコメントしたような、処罰規定の間隙ということが改めて問題になるように思われます。

追記:

不正競争防止法違反の罪が成立しないかですが、同法の

第21条
 次の各号のいずれかに該当する者は、10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
1.詐欺等行為(人を欺き、人に暴行を加え、又は人を脅迫する行為をいう。以下同じ。)により、又は管理侵害行為(営業秘密が記載され、又は記録された書面又は記録媒体(以下「営業秘密記録媒体等」という。)の窃取、営業秘密が管理されている施設への侵入、不正アクセス行為(不正アクセス行為の禁止等に関する法律(平成11年法律第128号)第3条に規定する不正アクセス行為をいう。)その他の保有者の管理を害する行為をいう。以下同じ。)により取得した営業秘密を、不正の競争の目的で、使用し、又は開示した者
2.前号の使用又は開示の用に供する目的で、詐欺等行為又は管理侵害行為により、営業秘密を次のいずれかに掲げる方法で取得した者
イ 保有者の管理に係る営業秘密記録媒体等を取得すること。
ロ 保有者の管理に係る営業秘密記録媒体等の記載又は記録について、その複製を作成すること。
3.営業秘密を保有者から示された者であって、不正の競争の目的で、詐欺等行為若しくは管理侵害行為により、又は横領その他の営業秘密記録媒体等の管理に係る任務に背く行為により、次のいずれかに掲げる方法で営業秘密が記載され、又は記録された書面又は記録媒体を領得し、又は作成して、その営業秘密を使用し、又は開示した者
イ 保有者の管理に係る営業秘密記録媒体等を領得すること。
ロ 保有者の管理に係る営業秘密記録媒体等の記載又は記録について、その複製を作成すること。
4.営業秘密を保有者から示されたその役員(理事、取締役、執行役、業務を執行する社員、監事若しくは監査役又はこれらに準ずる者をいう。次号において同じ。)又は従業者であって、不正の競争の目的で、その営業秘密の管理に係る任務に背き、その営業秘密を使用し、又は開示した者(前号に掲げる者を除く。)
5.営業秘密を保有者から示されたその役員又は従業者であった者であって、不正の競争の目的で、その在職中に、その営業秘密の管理に係る任務に背いてその営業秘密の開示の申込みをし、又はその営業秘密の使用若しくは開示について請託を受けて、その営業秘密をその職を退いた後に使用し、又は開示した者(第3号に掲げる者を除く。)
6.不正の競争の目的で、第1号又は第3号から前号までの罪に当たる開示によって営業秘密を取得して、その営業秘密を使用し、又は開示した者

中、1号または3号(特に1号)が問題にはなり得るものの、いずれについても、「不正競争の目的」を要するものとされており、不正競争の目的については、手元にある

逐条解説 不正競争防止法〈平成18年改正版〉

逐条解説 不正競争防止法〈平成18年改正版〉

を見ると(175ページ)、「自己を含む特定の競業者を競争上優位に立たせるような目的」とされ、具体的には、

1 侵害者が自らの事業に使用する場合
2 侵害者が特定の者に開示する場合(特定の競業者を競争上優位な立場にするなどの目的により)
3 特定の競業者を競争上優位な立場にするため、侵害者が不特定多数に開示する場合

とされていて、現在、問題となっている、単なる金目当ての情報売り飛ばし行為について、上記のような不正競争の目的を肯定するのは困難ではないかと思われます。
その辺は、「不正競争」防止法の立法趣旨による、現行の法規制の限界ということになるでしょう。>高木先生