韓国・ソウルの警察署

昨日から、弁護士会の企画による見学のため、韓国・ソウルへ来ています。昨日は、到着後、ソウル市内の警察へ行き、見学や関係者との意見交換を行いました。
私は、初めての韓国訪問ですが、羽田から金浦空港までは約2時間余りで、国内旅行と変わらない手軽さであることを実感しました。ソウル市内の様子をバスの中から初めて見ましたが、なかなか活気のある街であるというのが第一印象でした。
見学したソウル市内の警察は、規模としてはそれほど大きくはなく、大中小で言うと中規模程度といったところでした。留置場の内部は、扇状に配置された鉄格子付きの房が並んでいる、2階建ての構造で、日本での古いタイプの留置場にこういう構造のものがあるな、と思いました。男女が別の区画に収容されるという仕組みにはなっていないことに少し驚きましたが、この警察では、男性の房との間に目隠しのための仕切りを設置したり、女性の警察官が対応することなどで配慮しているとのことでした。全体として明るい雰囲気で、新しくはないものの清潔で整頓された状況で、居心地はそれほど悪くなさそうでした(と言っても留置場ですから、入りたい、という感じではありませんでしたが)。
特に印象的だったのは、パソコンを使用し、インターネットによる画像と音声で収容者と外部の者が連絡を取り合えるシステムが導入されていることでした。収容者のそばに警察官が付き、その監視下で、インターネットを利用し、相互の姿を見つつ、音声や文字(一種のチャット)で意思疎通ができる仕組みになっており、非常に便利だと思いました。こういった仕組みは、今後、日本でも導入を検討すべきでしょう。韓国は、日本よりも先にブロードバンド大国になった国ですが、関係者の話では、警察官が遠隔地の参考人等から事情聴取する際にも、インターネットを利用し、相手の自宅とか警察署にいる参考人等と、上記のような状況で対話する、といった方法が駆使されているとのことで、今なお電話とFAX程度で毎日忙しがっている日本の裁判所、検察庁、警察との大きな落差を感じました。
その後、面会室、接見室(弁護人用)や取調室なども見学しました。一般用の面会室は、日本のそれと似た構造でしたが、収容者と面会者との間に仕切り板にはさまれた大きな空間があり、声が通りにくそうで、聞こえない場合のために通話用の電話が用意されていました。
接見室(弁護人用)は、仕切り板がなく、日本の取調室のような構造で、関係者の説明によると、資料を見ながら打ち合わせをするといったことは自由に行えるとのことで、日本よりも制約の程度が低いと感じました。
圧巻だったのは、取調室でした。通常の取調は、刑事がいる大部屋で行われるとのことで、その取調室は、特別な取調(重大犯や性犯罪など)のためのものでした。透視鏡が備え付けられて外部からの面通しが可能な構造になっており、パソコンを使用して取調状況が完全に録画・録音できる仕組みになっていました。実際の取調状況の画像・音声も少し見せてもらいましたが、非常にクリアな状態で記録されていました。この警察は、建物がそれほど新しくはありませんでしたが、それでも、これだけの充実した録画・録音システムが導入できる以上、日本で導入できないという理由はないだろうと強く感じました。韓国の場合、取調に弁護士が立ち会う場合もあるとのことで、この点も日本(立ち会いは通常認められていない)とはかなり様相を異にしています。
その後、捜査課長(日本での刑事課長?)や警察署長と意見交換を行いましたが、非常に親切な方々で、忙しい中、時間を割いて、いろいろな説明をしてくれました。特に印象的だったのは、
1 韓国警察は、人権に配慮した捜査を行うことに細心の注意を払っている
2 人権問題は、韓国全体で非常に関心が高く、また、当直弁護士(日本の当番弁護士のような制度で、当直の弁護士が警察署を巡回して接見するようです)や、苦情申立制度などにより警察での人権侵害行為がすぐに明らかになる仕組みになっている
3 韓国警察は、独立した捜査権がなく検察庁に従属しており、独立した捜査機関である日本警察のようになりたいと考えている
といった点でした。
私が、元検事であると言うと、警察署長が興味を持ったようで、上記の3についてどのように思うか、と質問したので、私が、「戦前の日本は、現在の韓国と同様の仕組みであった。戦後、警察に各種の権限が与えられ独立した捜査機関になったが、同時に、与えられた権限を責任を持って適正に行使する仕組みになっていたはずだった。しかし、その後の展開の中で、警察の持つパワーが強大になり、持てる権限を適正に行使するという点が不十分になっている弊害が出ている。今後、韓国警察が独立した捜査機関になる際には、このような弊害にも目を向け参考にしてほしい。」と言ったところ、署長は興味深そうに聞いていました。
全体的な印象として、日本の警察よりも、収容者の行動(接見など)や取調等について、自由度が格段に高く、日本の制度があまりにも過剰規制なのではないか、という印象を持ちました。インターネットやパソコンを駆使している点も印象的で、警察関係者が、「日本よりも進んでいると言われても信じられない。」と言っているのを聞いて、少し恥ずかしい気持ちがしました。
見学の最後に、建物正面玄関前で、関係者と一緒に記念撮影をして、警察署を後にしました。
日本の警察署を見慣れている私にとって、別の国の警察というものは興味深く、非常に参考になりました。「取調の可視化」が日本でも問題になっていますが、韓国の現状を見ても、日本の一部の捜査関係者が言っているような反対論(被疑者との意思疎通が困難になる、真相が語られなくなるなど)は、世界的な潮流の中では到底支持されない議論であることを改めて痛感しました。
検事在職中は、毎日の忙しさの中で、他の国の警察署を見学するといった機会はなく、そういう意味では、弁護士になり、忙しい中でもこういった機会を得ることができるようになったことは良かったと感じるとともに、見識が深まっても、所詮、しがない弁護士ですから、社会に対する影響力は何も出てこないことに一抹の寂しさも感じつつ、今後とも、私は私でできることをやって行こうと思いました。
滞在しているホテルは、最近できたばかりということで、室内でインターネットがブロードバンドで使い放題であり、非常に快適です。そのような快適な状態の中で、このブログを書いています。
明日も引き続き見学の予定で、その状況はまた本ブログで書きたいと思っています。