「評決」と「事件」

法廷を題材にした小説で何か推薦してほしいと言われたら、私は、迷わずこの2冊を推薦します。この2冊は、甲乙つけがたいと思っていますし、いろいろな意味で、私自身、この2冊から影響を受けています。
「評決」については、

http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20041205#1102178141

で紹介したことがあり、「事件」についても

http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20041021#1098287261

等で紹介したことがあります。
「評決」の魅力は、ある医療過誤事件について、落ちぶれた弁護士(映画ではポール・ニューマンが好演していました)が、安易な妥協はせず徹底的に闘うことを決意するまでの葛藤と決断、裁判で真実を明らかにすることの困難さと、困難の中で真実を明らかにしようとする人々の努力と熱意で真実が明らかになる尊さ、明らかになった真実に対して躊躇なく思い切った評価を与える陪審員の重要性、といったことだと思います。主人公の弁護士の最終弁論は圧巻で、「評決」を読む機会がある方には、静まりかえった法廷で、この最終弁論が雄弁な弁護士により展開される場面を思い描いていただきたいと思います。
これに対して、「事件」は、日本の、どこにでもあるような法廷、珍しくない事件について、審理が進む中で意外な真相が徐々に明らかになって行く、というもので、事実認定の難しさ、微妙な証拠関係の中、どこかで事実を認定しなければならない裁判所の苦労、といったものが、非常に巧みに描かれている作品です。
「事件」では、このブログでも話題になっている、検察官面前調書の「特信性」が問題になります。ただ、特信性が認定されておしまい、という展開ではなく、検察官が思い描いたストーリーが、真実の重みの中で崩れて行く、という展開をたどります。この崩れて行く過程に、非常に興味深いものがあります。
この2冊は、多くの人に是非読んでいただきたいと思います。