機内での盗撮、立件に壁 「どこの上空」特定が必要

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121014-00000006-asahi-soci

盗撮の摘発には、発生した場所の都道府県の迷惑防止条例が適用される。だが、飛行中の旅客機内では、どこの上空だったのかの特定が難しく、これまで逮捕された例はなかった。今回は目撃者や乗務員の証言から、盗撮した時刻を午前8時9分と特定し、航路の分析から盗撮地点を兵庫県篠山市上空と断定して同県の条例違反容疑での逮捕に踏み切った。
しかし、捜査関係者によると、事件を送致された検察側は、正確な時間や場所の特定ができず、兵庫県の条例違反に問えるか疑問が残ると判断し、逮捕から10日後に処分保留のまま釈放したという。このまま不起訴となり、罪に問われない公算が大きい。

刑法で、犯罪地を問題にする際、「領空」も含まれるとされていますから、条例適用上の犯罪地を決める上で、都道府県の上空の、航空機が飛行している空間は犯罪地に含まれると考えてよいでしょう。問題は、条例が制定された都道府県の「上空」になるのか、ということになります。
どういった証言であったかがよくわからないのですが、証言レベルでの時間特定は、曖昧になりやすく、ごく短時間でかなりの距離を飛行する航空機の性質上、上記のような判断に至った、というのも、やむを得ない面はあると思います。
この種の行為が、改正航空法で処罰対象になるのではなかったのか、と疑問に思って調べてみたのですが、航空法では、73条の4第5項で、

機長は、航空機内にある者が、安全阻害行為等のうち、乗降口又は非常口の扉の開閉装置を正当な理由なく操作する行為、便所において喫煙する行為、航空機に乗り組んでその職務を行う者の職務の執行を妨げる行為その他の行為であつて、当該航空機の安全の保持、当該航空機内にあるその者以外の者若しくは財産の保護又は当該航空機内の秩序若しくは規律の維持のために特に禁止すべき行為として国土交通省令で定めるものをしたときは、その者に対し、国土交通省令で定めるところにより、当該行為を反復し、又は継続してはならない旨の命令をすることができる。

とされ、150条5の3号で、命令違反者に対しては50万円以下の罰金刑に処する、とされています。
そこで、盗撮が、上記の「特に禁止すべき行為として国土交通省令で定めるもの」に該当するか、が問題になりますが、

http://www.mlit.go.jp/common/000137707.pdf

によると、航空法施行規則164条の15で、盗撮は含まれておらず、同条3号の

航空機に乗り組んでその職務を行う者の職務の執行を妨げる行為であつて、当該航空機の安全の保持、当該航空機内にあるその者以外の者若しくは財産の保護又は当該航空機内の秩序若しくは規律の維持に支障を及ぼすおそれのあるもの

に、直ちに該当するとも言いにくい(「当該航空機内の秩序若しくは規律の維持に支障を及ぼすおそれ」は、一見、肯定できそうですが、「盗撮」という行為の性質上、直ちに秩序や規律の維持に支障を及ぼすかは疑義があり、安全の保持や財産の保護に支障を及ぼすとは考えにくく、そもそも密かに行われることから「航空機に乗り組んでその職務を行う者の職務の執行を妨げる行為」と言えるかも疑問でしょう)と思います。
今後の対策としては、上記の航空法施行規則で、盗撮等、都道府県の迷惑防止条例で処罰の対象となっているような行為は禁止行為として一通り入れておき、必要に応じ、命令を介することなく処罰対象にする、といったことが考えられます。

2012年10月13日のツイート

「東電事件再審」 高検が異例の無罪検討

http://373news.com/_column/syasetu.php?ym=201210&storyid=43735

高検が有罪から無罪へ主張を転換する見通しとなったのは、被害女性と最後に接触した人物のものである可能性が高い爪の付着物でも第三者の存在が裏付けられ、有罪立証のよりどころを失ったためである。検察は重要な物証を軽視して鑑定を見送ってきており、失態と言わざるを得ない。

現行の刑事訴訟法上、判決が確定した後、再審請求をしようとし、あるいは、請求しても、請求側では、検察庁が握っている証拠にアクセスすることが極めて困難で、そういった証拠の中に無罪、無実につながるものが潜在していても検察庁が握りつぶしている限りなかなか日の目を見ず無罪、無実につながらない、という欠陥が、これほどあからさまに露呈した事件は、かつてなかったと言えるでしょう。
少なくとも、再審請求審においては、検察庁が、持っている証拠のリストをすべて裁判所へ提出し、裁判所が、適宜、その存在を請求側へ開示しつつ、特に、新鑑定、再鑑定を行うことで確定判決の事実認定が変わり得るような証拠物については、裁判所に鑑定を義務付ける、といった法改正が真剣に検討される必要があると思います。
そういった立法を積極的に進めるべき法務省(特にこうした立法を担当する刑事局)が、幹部をことごとく検察庁出身者に占められ、検察庁の利益に反することはやろうとしない、偏頗な組織になっている、という点も、今後、見直しが必要ではないかと思います。刑事立法について、法務省内にあっても、検察庁とは適切な距離を置いた、バランスのとれた人的構成の組織が主体的に検討、推進するという仕組みが必要でしょう。