金田法相「一般人に嫌疑生じぬ」=「共謀罪」で質疑―参院委

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170530-00000074-jij-pol

金田勝年法相は、一般人に対する捜査について「一般の方々にテロ等準備罪の嫌疑が生じることはなく、被疑者として捜査の対象とすることはない」と否定した。

犯罪というものは、全くの内心で考えている状態から、犯罪の実行へ向けて具体的に計画する、予備行為を行う、さらに実行行為に着手する、実行を遂げるといった流れで発展していくものです。
従来は、計画、共謀の段階で処罰するのは、例外的な数十程度の犯罪に限定されていましたが、現在、審議中のテロ等準備罪共謀罪)が成立すれば、対象犯罪は数百と、飛躍的に増えますから、それだけ捜査機関が「嫌疑」を抱いて捜査対象にするケースも飛躍的に増えることになります。
捜査というものは、最初から、一般人を対象にするとかしないとか、区別して行うものではありませんし、かなり明らかに組織犯罪集団のメンバーと認定できる者が、周辺の者と共謀罪の嫌疑が生じるような様々な接触を行なっていた場合、接触の仕方によっては周辺者も捜査対象になることは十分にあり得ることで、そういった周辺者が、外形上、「一般人」であっても、そうであるから捜査対象から除外するということにはならないでしょう(むしろ、そういう粗い除外の仕方が、捜査の在り方としてはあり得ないことです)。その意味で、法務大臣が言っているような、「一般の方々にテロ等準備罪の嫌疑が生じることはなく、被疑者として捜査の対象とすることはない」というのは、捜査実務、実態を踏まえているとは到底言い難いものがあります。
例えば、組織犯罪集団が、違法薬物、銃器、テロ用の爆弾などを、組織の計画に基づいて運搬しようとして、運搬する運び屋を調達するため、そのメンバーが、知人の非メンバー(外形上は一般人)に、LINEで、

「ちょっと運んで欲しいものがあるんだけど」
「詳しいことは電話で話すね」

といった依頼をして、実際は、電話では、

「危ないものじゃないから安心してね」

と言っていても、LINE上ではそういう会話のやり取りは出てこず、依頼された側が、

「わかった、了解」

と答えていれば、捜査機関は、LINEのやり取りから、犯罪の計画を遂げた可能性が高いと判断して、非メンバーに対する捜索差押や、さらには逮捕、勾留に踏み込む可能性はかなり高いでしょう。最終的に起訴は難しくても、そういった外形上は一般人の人が捜査対象になることは十分にあり得ますし、逮捕、勾留されて、かなり厳しく取り調べをされて、実際は「危ないものじゃないから安心してね」と言われていたにもかかわらず、危ないものとわかっていたという嘘の自白をしてしまい起訴されるということも、現状の捜査実務の中ではあり得ることです。共謀罪関連犯罪についての捜査中の取調べで可視化されるものはごく一部ということになりますから、そうなってしまった場合に、虚偽自白であることを、後日、明らかにすることは簡単ではないでしょう。自分は一般人だから関係ない、とは到底言えないものがありますし、共謀罪というのは、上記のような犯罪のプロセスの、かなり早い段階を問題にするだけに、そうであるからこそ、誰もがある日突然に関わり合いを持ってしまう、そういう可能性を持っているものだと言えるでしょう。自分は一般人だから関係ない、では済まないわけです。
共謀罪が成立することで、そういったリスクはかなり高まることになり、そういうリスクを負っても、成立させるだけのメリットがあるかどうか、現状で十分に説明され国民の大多数の理解、納得が得られているとは、残念ながら考えにくいものがあります。