共謀罪があればテロは防げるか?

フランスのテロ事件を契機に、共謀罪が亡霊のように再び話題にのぼり、政治家が、あたかも共謀罪があればテロが防げるかのような発言をしています。本当にそうなのでしょうか。私はそうは思いません。
成功したテロ、暗殺事件というものは、警備・公安当局が、事前の情報入手、阻止に失敗した、情報はあったが生かせなかったが故に起きたもので、今回のフランスにおけるテロ事件でも、詳細は不明ですが同様のはずです。アメリカでの9・11テロでも、FBIは、テロの兆候を指し示す情報を掴んでいたものの生かせなかったことが、既にある程度明らかになっています。テロリストにとってみれば、共謀罪があろうが何罪があろうがテロの意図を挫くものではありませんし、事前の情報に基づいて警備・公安当局が動かなければ、共謀罪があっても何罪があってもテロは阻止できません。
では、事前の情報があっても、共謀罪がなければテロは阻止できないのでしょうか。そんなことはありません。日本の刑罰法令では、殺人予備罪、銃刀法、爆発物取締罰則火薬類取締法等々、テロの準備段階で関係者を取り締まることができるものがいろいろあり、当局がその気になれば、例えば偽造旅券での入国、滞在を旅券法違反、出管法違反で摘発したり偽名でレンタカーを借りたことを私文書偽造・同行使で摘発するといったことも可能です。これらは既に犯罪の実行行為があるわけですから、共謀のみにとどまっている者についても刑法60条に基づく共謀共同正犯として摘発できます。対テロということになれば、あらゆる刑罰法令が駆使されることになり、それなりに具体的な情報があるからこそ阻止に動いているわけですから、共謀罪がないから摘発できません、という事態は極めて考えにくいものがあります。実際、例えばアメリカの9・11テロは、共謀罪があるアメリカで阻止できていませんし、事前の情報が生かされて阻止へと動いていれば、共謀罪以外のあらゆる刑罰法令が駆使されて摘発されたことでしょう。
馬鹿な、あるいは狡猾な政治家の口車に乗り、テロへの恐怖心を煽られて、国民の日常生活に重大な影響を与えかねない治安立法に安易に賛成してしまう危険性を認識する必要があると思います。
国民の生命、身体、財産を守るために現実的かつ有効なテロ対策を講じることは極めて重要なことですが、抽象的なスローガン、空想論レベルでは、テロは防止できず死なずに済む人が死んでしまいかねません。