http://digital.asahi.com/articles/TKY201206070375.html
再審請求審では、被害女性(当時39)の遺体の付着物などが検察側から開示され、新たにDNA型鑑定が実施された。
決定によると、殺害現場となったアパートの空き部屋にあった体毛と、女性の体内から採られた精液のDNA型が一致し、元被告と異なる第三者の男性のものと判明した。さらに、女性の下腹部や右乳房、着ていた下着やコート左肩の血痕からも、この男性のものとみられる型が検出された。こうした結果を踏まえ、「第三者の男性が被害者と現場で性交した可能性を示している」と述べた。
検察側は、女性が多数の男性と性的関係を持っていたことから「別の場所で女性に付いた体毛が現場に持ち込まれた可能性がある」などと主張していた。しかし、決定は「可能性がないとまでは言えないが、現場で第三者と性交したとみる方が自然だ」と退けた。
そのうえで、確定判決が「元被告の犯行」との根拠としていた状況証拠に疑問が生じたと判断。「今回の鑑定結果は無罪を言い渡すべき明らかな新証拠だ」と結論づけた。
決定を読んでいて、特に強く感じたのは、上記の「コート左肩の血痕」が第三者である男性のものであることが、裁判所の心証に大きく影響したのではないか、ということでした。決定によると、コート左肩背面部にあり長さ2.5センチメートル、幅1センチメートルで明確に視認できるもの、ということで、決定では、本件犯人が被害者を殴打した際に自らの手の表皮も若干剥落し本件犯人の細胞成分が被害者の血液に混じり(鑑定結果では被害者のDNA含有物が主要構成分)、本件犯人がコート左肩背面部に触れた際に付着した可能性が考えられる、と認定されています。
確定判決が、受刑者が犯行現場で被害者と性行為に及んだ後に殺害した、と認定していたのに対し、それが受刑者ではなく第三者ではないかという、少なくとも合理的な疑いが生じた以上、確定判決をもはや維持することはできない、と判断した決定には、無理なく、ごく自然に理解でき、うなずけるものを感じます。
ただ、本件では、そもそも犯行現場となった部屋の鍵を持って管理していたのは受刑者であり、被害者が克明に手帳に記入していた売春客の状況と、犯行日より前に被害者と接触したという受刑者の主張が合致しない等の確定判決の認定があり(決定では、部屋が施錠されていなかった可能性や手帳中の記載に受刑者の主張に沿うのではないかと考えられるものがあるとされていますが)、また、決定でも検討されているように、被害者の死体から受刑者のDNA型と同じアリール(個人が父母それぞれから精子と卵子を通じワンセットづつ受けた染色体のコピーの特定の位置に異なるタイプがあり、それぞれのタイプの総称がアリール、とのことです)が検出されているという事実もあって(決定では、以前から部屋に出入りしていた受刑者による遺留物による可能性を指摘していますが)、そのような状況証拠を依然として重視すべきで、決定のように、犯行当日の第三者との接触事実を犯人と結び付けるのは飛躍があり過ぎる、という見方も、まったく成り立たないわけではない、とは思います。
今後、異議申立審で、決定の当否が判断されることになりますが、決定を読んだ感想としては、今後、再審開始決定が覆らない可能性が8割程度であるものの(従来、私は五分五分と言っていましたが、決定を読み心証が変わりました)、残り2割程度は、確定判決の証拠構造に即して本件を見て再審を認めないという判断も依然としてあり得るのではないかと感じています。おそらく、そういった発想で、検察庁は、再審開始を何が何でも阻止しようと、必死にもがき続けているのでしょう。
決定的、明らかなものがないだけに、今後も、微妙で悩ましい審理が続くことになりそうです。