http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080108-00000901-san-soci
危険運転致死傷罪については、
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20071221#1198195291
でもコメントしたように、適用のハードルが高い構成要件になっていて、それを満たしたが故に刑も格段に重い、という構造になっているため、悪質な人身事故事案であっても、同罪は適用されない、というケースが生じてきます。このあたりは、国民の素朴かつ常識的な意識(飲酒して人身事故を起こし重大な結果を生じさせた場合は厳罰に処せられて当然である)と、法の現実にズレがある、という面があるように思います。
この福岡事件に絡んで、先日、名古屋高裁で、一審判決を破棄し危険運転致死傷罪を適用した判決に言及されることがあります。これについては、
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20071226#1198631716
でコメントしたように、名古屋事件では、現場の一つ手前での赤信号無視という重大な出来事があって、その積極評価により同罪の適用が肯定された(肯定できた)もので、おそらく、福岡事件ではそのような事情が存在せず、裁判所が同罪の適用に踏み切れなかったのではないか、と思います。
事実認定というものは、取り調べられた証拠の総合評価によるものであり、福岡事件についても、今後、福岡地検が控訴し(その可能性はかなり高いと思われます)、福岡高裁における審理の結果として、危険運転致死傷罪が認定される、という可能性がないわけではありません。福岡地検、福岡高検としては、判決文を十分検討し、補充立証が可能な点は行い、公益の代表者として、国民の疑問や期待に応えるとともに、被害者やその遺族の無念な気持ちを十分酌んだ活動を今後も続けるべきでしょう。
上記の記事でも指摘されていますが、昨年、道路交通法が改正されて法定刑が大幅に引き上げられ、飲酒運転だけでなく、ひき逃げについても、
第117条
1 車両等(軽車両を除く。以下この項において同じ。)の運転者が、当該車両等の交通による人の死傷があった場合において、第72条(交通事故の場合の措置)第1項前段の規定に違反したときは、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
2 前項の場合において、同項の人の死傷が当該運転者の運転に起因するものであるときは、10年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
と、「当該運転者の運転に起因する」、すなわち、自ら事故を起こして現場から逃走したような場合は、10年以下の懲役まで科せられるようになっています。福岡事件が、改正道路交通法施行後に起きていれば、併合罪加重により、懲役15年までは科せられたはずで、その意味では、法改正の狭間で起きたことにより実態に即した科刑ができなかった、という評価もあり得るように思います。
以前、
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20060914#1158164663
でも指摘しましたが、現行法の下でも、ひき逃げを伴わない飲酒運転人身事故の場合は(ひき逃げを伴えば上記のように懲役15年まで刑が科せます)、危険運転致死傷罪が適用されなければ、自動車運転過失致死傷罪の法定刑に併合罪加重して懲役10年6月が上限になるはずで、処罰の間隙は依然として残っています。そのあたりを合理的に埋め処罰の間隙を解消する更なる法改正も、今後、検討する余地はありそうです。
一つの方法として、改正後の道路交通法では、
第117条の2 次の各号のいずれかに該当する者は、5年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
1 第65条(酒気帯び運転等の禁止)第1項の規定に違反して車両等を運転した者で、その運転をした場合において酒に酔つた状態(アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態をいう。以下同じ。)にあつたもの
(2項以下略)
とされていますが、上記のような酒酔い状態で事故を起こした場合は、懲役10年まで科せるようにして、ひき逃げを伴わない、危険運転致死傷罪が適用されない飲酒運転人身事故についても、懲役15年までは刑が科せるようにしておく、ということも考えられるのではないかと思います。