日本刑法学会における「共謀罪」の検討

一昨日、昨日と、京都の立命館大学で行われた日本刑法学会に参加してきました。報告、分科会など、いろいろと興味深い内容でしたが、特に印象に残ったのは、2日目の午後に行われたワークショップ中の、「共謀罪」をテーマにしたものでした。他にも出たいワークショップがあったのですが(指宿教授の「サイバー手続法」など)、共謀罪が焦点になっている現状から、共謀罪のワークショップに出ることにしました。
ある元検察実務家(元検事長)から、共謀罪導入には賛成できない、という見解が開陳されました。その理由は、私なりにまとめると、
1 従来の犯罪は、それなりの結果(未遂も含め)があって、そこから共謀へとさかのぼる捜査が行われてきたが、共謀罪では、結果がないところに捜査を行うことになり、捜査の端緒のつかみ方を含め捜査手法に困難が伴うし、「内心」に踏み込むため供述を偏重するなどの弊害が出かねない。戦前の特別高等警察のような「特別の捜査機関」が出現するおそれもある。
2 昔に比べ、裁判所によるチェック機能が落ちている現状(安易な勾留、なかなか認められない保釈など)で、捜査機関による共謀罪濫用の危険性がある。
3 検挙率が落ち込んでいる現状こそ問題であり、結果が発生している犯罪の検挙率を上げることが先決ではないか。
といったことで、導入するとしても(今国会かどうかはともかく、導入は避けられないであろうという見通しも語られていました)、慎重に要件を絞り込み、導入後の運用についても慎重に行われるべきである、という意見が表明されました。
その後、首都大学東京の亀井助教授から、アメリカにおけるコンスピラシー(訳せば共謀罪ですが、日本で導入されようとしている共謀罪の原型になったもの)について、わかりやすい解説があり、多くの州で要求されているオーバート・アクト(「コンスピラシーのうちの1名がコンスピラシーの促進へと前進したこと」、日本の共謀罪でも、「犯罪の実行に必要な行為その他の行為」を処罰条件とする、という形で模倣されようとしている)が、その法的性質はあくまで、計画が進行中であることを示すためのもので、「処罰条件」という機能は乏しい、ということなどが指摘されていました。
亀井助教授の解説では、コンスピラシーについては、その概念について、「本質的に持つ曖昧さ」ということが批判として指摘されつつも、アメリカでは連邦法、多くの州法で導入されているとのことで、私の印象としては、その歴史は13世紀のイギリスにまでさかのぼることからも、英米法という、日本法とは別個の法体系の中で、歴史的に形成されてきたという色彩が強く、それを、一種の鉢植えのように日本に移植しようとすることに、そもそも無理があるのではないか、と思いました(日本で江戸時代にできた「公事方御定書」に基づく犯罪体系を現代まで使っていたとして、その一部を英米やヨーロッパで導入するということになれば、当然、抵抗が生じるでしょう)。
ワークショップ中、海渡弁護士から、国会における共謀罪審議の状況や検討中の問題点等が紹介され、私も、元検察官の実務家として、本ブログで述べているような意見を何点か述べましたが、共謀罪導入に対しては、終始、反対論や疑問を呈する見解が相次いでいて、この問題に対する危機感の大きさが浮き彫りになったというワークショップだったと思います。

暴走する(?)「共謀」概念(続)
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20060528#1148783207
法は、成立すればあまねく広範囲に、そして拡大して適用される
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20060524#1148435894
『共謀』の概念既に拡大 相談なしでも摘発
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20060524#1148429876
共謀罪」成立へ向けて必死(?)な法務省
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20060523#1148388944
共謀罪めぐりHPでバトル 日弁連法務省説明に対抗
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20060509#1147107400
共謀罪』 与党修正案を検証する
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20060502#1146581537
暴走する(?)「共謀」概念
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20060423#1145799880
共謀罪>野党反発、大荒れ審議入り 衆院法務委
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20060423#1145720427
共謀罪適用、「組織的犯罪集団」に限定・自公が修正案
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20051018#1129564929
マンション建設妨害の住民、共謀罪は成立せず・法務省
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20051015#1129384447

追記:

ワークショップの際には、明確に賛成論を述べる、という方はいなかったですね。進め方として、法務省・与党サイドに立って話す、という人がいたほうが、より活発な議論になったとは思います。その辺は、私自身、一参加者で、進行について関与する立場にはなかったので、どういう経緯であったかはよくわかりません。