小倉昌男 祈りと経営: ヤマト「宅急便の父」が闘っていたもの

小倉昌男氏といえば、クロネコヤマトの物流システムを築き上げた偉大な経営者、というイメージがまず浮かびます。本書は、そういう小倉氏が、晩年、福祉活動に熱心に取り組んだ背景、同氏のパーソナルな側面に光を当てたもので、実に充実した傑作ノンフィクションとして、今後も長く読み継がれるだろうと、通読してしみじみと感じました。
ネタバレになるので、興味ある方は是非読んでいただきたいのですが、小倉氏がパーソナルなところで抱えていたものにはかなり重いものがあったと強く感じます。単に成功した経営者というだけでなく、信仰を大切にし、周囲の人々や福祉で貢献しようとした多くの障がい者を大切にして、苦悩の日々もありつつも、最後は家族に囲まれつつ異国の地で静かに逝った小倉氏の人生に、とても共感のようなものを感じましたし、人として強く惹かれるものを感じました。
私の事務所の割と近くに、小倉氏の墓所があると本書でわかり、何となく心強くも感じています。
こういったパーソナルな部分に踏み込むノンフィクションは、関係者の理解がなかなか得にくいもので、著者や編集者の苦労がしのばれますし、なかなか表に出しにくいところも敢えて出した関係者の気持ちにも複雑なものがあったと推察されます。そういった様々なものを乗り越えて本書が世に出たのは、没後10年余りが経った小倉氏の真実の姿を世に知ってほしいという関係者の強い想いだったのかもしれません。小倉氏の人徳のようなものも感じます。