ステルスマーケティング(ステマ)と景品表示法

最近、話題の、芸能人によるペニーオークション絡みのステマ問題について、いろいろな取材を受けているのですが、その中で、景品表示法(正式名称は「不当景品類及び不当表示防止法」)についても聞かれることがあるので、ちょっと整理しておきます。
この点については、

日本におけるステルスマーケティングの法規制まとめ(追記あり
http://blog.livedoor.jp/businesslaw/archives/52222124.html

が、よくまとまっていて参考になりますので、それを踏まえてコメントしてみます。
景品表示法は、4条1項で、「事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。」として、

1  商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
2  商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
3  前2号に掲げるもののほか、商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定するもの

を挙げています。これらが不当表示に該当することになります。消費者庁は、上記のブログエントリーでも紹介されているように、口コミ、について、「当該事業者の商品・サービスの内容又は取引条件について、実際のもの又は競争事業者に係るものよりも著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認されるもの」かどうかを問題にし、そうであれば不当表示に該当する、として、その例として、

商品・サービスを提供する店舗を経営する事業者が、口コミ投稿の代行を行う事業者に依頼し、自己の供給する商品・サービスに関するサイトの口コミ情報コーナーに口コミを多数書き込ませ、口コミサイト上の評価自体を変動させて、もともと口コミサイト上で当該商品・サービスに対する好意的な評価はさほど多くなかったにもかかわらず、提供する商品・サービスの品質その他の内容について、あたかも一般消費者の多数から好意的評価を受けているかのように表示させること。

を挙げているわけです。
ここで注意すべきは、現在、問題視されているステルスマーケティングについては、「ステルス」というネーミングから明らかなように、「実際は、広告をしたい者が金銭等の対価を提供して広告を依頼しているのに、広告にはそのことが表示されていない」ことが大きく問題にされているのに対して、景品表示法の解釈、適用にあたっては、そこは問題されず(法文上、問題にできず、といったほうが正確でしょう)、「当該事業者の商品・サービスの内容又は取引条件について、実際のもの又は競争事業者に係るものよりも著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認されるものかどうか」という、そこに限定した問題のされ方になっていることです。ここは、景品表示法の限界、と言えるでしょう。幅広く、消費者の広告に対する信頼を保護する、というものではなく、1条にあるように、あくまで「商品及び役務の取引に関連する不当な景品類及び表示による顧客の誘引を防止する」という目的の下、「表示された内容と実際の内容との食い違い、誤認の恐れ」が問題にされています。
この点、アメリカのFTC(連邦取引委員会)のガイドラインで、

FTCが広告に関するガイドラインを改訂,ブロガーやクチコミ情報に影響
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20091007/338500/

広告主と推奨者の間で、金品の授受といった、消費者が想定していないつながりがある場合、その旨を明示するべきだとする原則が以前より設けられていたが、今回の改訂で、その事例を新たに追加した。例えばブロガーが金銭を受け取って商品を勧めるレビューを書いた場合、それは推奨行為と見なされ、その商品の販売者との関係を開示する必要があるとしている。
また、著名人がトークショーやソーシャル・メディアなど、従来の宣伝以外の状況で、製品やサービスを推奨するコメントを発する場合も、広告主との関係を明らかにすることを求めている。

といった縛りがかかっていることとは、縛りのかかり方が異なります。日本の、上記のような規制のほうが、より限定されていると言えるでしょう。
この点、上記のブログエントリーでは、

「優良誤認・有利誤認をさせなければステマは合法です」とのコメントを@issy1080さんから頂きました。ステマという語の定義・捉え方の問題かと思いますが、私はステマを「商品・サービスを提供する事業者(または広告代理店等協力者)が、中立な立場を装って消費者を騙し、“本来は得られない高い評価”を広めようとする行為」と捉えています。事業者らが消費者の優良誤認・有利誤認の効果を狙う手段が「ステマ」なのであって、(最終的に優良誤認・有利誤認で景表法違反とされるかは別として)“優良誤認・有利誤認の効果を狙わないステマはそもそもステマではない”という前提で違法と書いています。

とあって、「最終的に優良誤認・有利誤認で景表法違反とされるかは別として」としつつも、ステマとされるものがすべて景品表示法違反とされるべき、としているようにも見えますが、その方向性は評価できるものの、現行法の解釈としては、それは広すぎる、ということになると思います。上記の「優良誤認・有利誤認をさせなければステマは合法です」というのは、正確に言うと、「優良誤認・有利誤認をさせなければステマは、景品表示法上は違法とまでは言えません」ということになります。例えば、詐欺サイトであると知った上で推奨する、といったことがあれば、優良誤認、有利誤認といったことがなくても刑法上の詐欺幇助罪が成立する、といったことはあり得ます。
今後のあるべき方向性ですが、私見としては、法規制へと進む前に、業界において適正なガイドラインを設けそれを遵守するようにすべきだと思います(その動きは既に行われているようです)。それができない、あるいは実効性が乏しい、ということであれば、例えば、上記の景品表示法4条1項3号で、「商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがある」ものを類型化し、その中に、FTCガイドラインが定めるようなものも含め、内閣総理大臣が指定する、というのも1つの方法ではないかと思います。
ただ、そこまで進んだ場合、広告規制としてはかなり強力なものになり、消費者保護にはなりますが、広告する側にとっては、かなり厳しく窮屈なことにはなるはずですから、やはり、まずは自主的なガイドラインによる適正化、ということを推進すべきでしょう。