東郷平八郎

東郷平八郎 (ちくま新書)

東郷平八郎 (ちくま新書)

前から、きっちりと読みたいと思いつつ読めずにいたのですが、昨年12月に、NHKドラマの坂の上の雲が完結したこともあり、この辺できっちりと読んでおきたいと思い立ち、通読しました。新書にしてはみっちりと書き込まれていて、読んでいて疲れましたが、読む価値のある本でした。
この本の特徴は、日露戦争後、死去までの東郷平八郎の姿、行動を丁寧に描き出していることでしょう。「聖将」として崇拝され神格化される中、よく知られる海軍内の「艦隊派」「条約派」の抗争で一方の艦隊派の頭目となってしまい、軍国日本を強力に推進する大きな力となる姿は、今となっては「老害」としか言いようがないものです。東郷平八郎というと、とかく英雄視され批判を避ける風潮もある中、丹念に資料にあたり、こういった東郷平八郎の負の側面に光を当てた著者には、お疲れ様でしたとねぎらいたい気持ちに、通読後、なりました。
現在、「老害」というと、多くの人の頭の中に、「あの」人物の老いた醜い姿が浮かんできますが、一つの時代を画した人物は、それだけに次の時代では生きにくく、無理に生きようとするとかえって害をなしてしまう、老害をまき散らしてしまう、ということを、東郷平八郎の生涯から、しみじみと感じさせられるものがありました。
坂の上の雲のその後、ということで、読む価値のある1冊と思います。