- 作者: 吉本敏洋
- 出版社/メーカー: 九天社
- 発売日: 2006/12
- メディア: 新書
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一昨日購入し、昨日、一気に読みました。グーグルについては、明暗の明、正負の正の側面が脚光を浴びがちですが、この本では、後者、すなわち「暗」「負」の側面に光があてられています。インターネットが広く普及し、人々の検索エンジンへの依存度が高まれば、情報が検索できるかできないかが、検索対象(特に「検索されたい」人や組織)にとって死活問題にもなり、検索結果の表示に不公平や恣意性等が持ち込まれてしまえば、種々の問題が生じてくるのは事実でしょう。その意味で、この本で指摘されている問題は、軽視できないものであり、今後、さらに深刻な問題へと発展してゆく可能性をはらんでいると思います。
ただ、検索サイト運営者としては、検索結果表示について、「表示されたくない」と考える人や組織が、名誉毀損等を訴え、少なからぬ人々が検索サイト運営者自体の法的責任(民事及び刑事)も主張して、熾烈に削除等を求めてくることに対し、単に、「訴訟で受けて立ちその結果に従う」という対応だけで済ませる、というわけにも行かないのが実状だと思います。訴訟費用をけちるな、というのは、一つの考え方ではありますが、「権利侵害を知りながら敢えて放置すれば責任が発生する」という考え方も無視できない現状では、訴訟へと先送りできない、と考えざるを得ない場合も生じてきます。そして、訴訟とは異なり、主張や証拠による立証、それに対する反論や反証、といったことが困難な状況下で、削除する、しない、といった判断を迫られる検索サイト運営者は、進むも地獄、退くも地獄、という、極めて厳しい立場に置かれてしまっているということが言えると思います。
私自身、この本の著者の、検索サイト(特に巨大な)運営者には社会的責任がある、という主張はもっともだと思いますが、その責任を果たす中では、検索結果を残してほしい、削除しないでほしいと強く望む人や組織(この本の著者のような)と、削除してほしい、表示させないでほしいと強く望む人や組織の利益を、公平に取り扱う必要があり、そこが極めて難しい、ということを、この本を読みつつ改めて強く感じました。そもそもの問題点は、この本でも指摘されていますが、名誉毀損法理を適用する上で、純然たる私人も公的存在も区別せず、後者についても公共利害性や公益目的、真実性(真実誤信相当性も含め)の厳密な立証を求めている現状にあるとも言えるでしょう。
この種の問題を考える上で、必読の1冊ということが言えると思います。