福知山脱線事故、公判は「予見可能性」が争点に

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090709-00000123-yom-soci

検察側は、社内には半径450メートル未満のカーブにATSを設置する基準があり、事故現場に設置すべきだったとする。
JR西は東西線開業で尼崎駅への乗り入れがスムーズになるよう、現場カーブの半径を600メートルから304メートルに付け替えたが、設置を義務づけた法令は当時なかった。工事も、国土交通省の認可を得ていた。
JR西関係者は「路線単位でATSの整備を進めるのが当時の常識。(特定のカーブなど)ピンポイントで危険を予見し、設置する考えはなかった」とする。

1996年12月、JR函館線(北海道)で、貨物列車の脱線事故が起きた。居眠りをした運転士が、制限速度を47キロ超過してカーブに進入したことが原因だった。
この事故から、検察側は速度超過を防ぐ措置を講じるべきだったとする。
一方、兵庫県警は福知山線脱線事故の現場を運転したことのある現役、OB運転士200人以上から事情聴取したが、ほぼ全員が「現場カーブが危険だと感じたことはない」と述べた。
カーブの付け替え後8年間、事故の予兆となる運転ミスもなかった。JR関係者は「刑法上の過失は、制限速度を45キロ超過してカーブに進入した運転士に集約される」と断言する。

函館線事故の現場カーブは福知山線の事故現場とほぼ同じ半径300メートル。検察側はこの事故が鉄道本部内で話し合われ、山崎社長に報告されていたことから危険認識を有していた、とする。
だが、JR西関係者は「貨物事故で死傷者がなかったということもあり、当時はそれほど緊迫感をもって議論されなかった」と主張する。
事故を受けた国交省の通達も、居眠り運転防止の徹底を求めるもので、山崎社長も事情聴取に「函館線事故を教訓にATSを設置するという考えにはならない」と予見性を否定したという。

こうして見ていると、注意義務違反を認定する根拠となった事情は、過失責任を導くものとしては弱さを感じざるを得ず、直接の原因が、運転士による異常な速度によるカーブ侵入であったということも併せ考えると、よくここまで踏み込んで起訴できたな、という印象を率直に言って感じずにはいられません。
最近、問題となった特殊業過事故としては、他に

当直士官2人を在宅起訴=業過致死罪など−イージス艦衝突事故・横浜地検
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20090421#1240289863
東京・芝のエレベーター事故死:シンドラー社員も立件 6人書類送検へ−−警視庁
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20090330#1238373852

がありますが、今回の福知山事故のケースを含め、結果に最も近いところにある「直近過失」だけでなく、その前に位置する過失というものも問題にされ、複数の過失が「競合」しているとされている点に共通する特徴があると思います。
しかし、あたごの事故についてコメントしたように、先行する過失に比べて、後行する過失の度合いが著しく大きいような場合は、「競合」を認定することが不合理な場合もあると思われ、また、直近過失(福知山事故では運転士、あたご事故では衝突時の当直者、エレベーター事故では管理会社関係者)より前に位置している者は、結果から離れているだけに、予見可能性や結果回避可能性が低い、乏しい、ということになりやすいとも思われ、安易に「過失の競合」を論じ認定すると、過失責任を問われる者の範囲は不当に拡大し、人の行動の自由が大きく制約されることにもなりかねないでしょう。
その意味で、福知山事故において、神戸地検は、あたご事故やエレベーター事故で見受けられた最近の検察庁における過失認定の傾向を、さらに推し進め、従来であれば踏み込めないと思われた領域まで遂に踏み込んできた、という見方もでき、それだけに、今後の公判が注目されると思います。この事故で、JR西日本の社長(間もなく辞任するようですが)が最終的に有罪になるようであれば、従来の実務が、基本的に直近過失論の立場に立ち厳格に過失責任を考えていたことから大きく踏み出し、結果が発生した以上は関連する過失をさかのぼって幅広く追及するという新たなステージへとつながる可能性もありそうです。本当にそれで良いのか、という問題意識は、やはり必要でしょう。