一審無罪の元従業員に逆転有罪=温泉宿泊施設横領−高松高裁

http://www.jiji.com/jc/zc?k=200909/2009091700256&rel=y&g=soc

柴田裁判長は「施設では入湯売上金の管理が不十分で、被告以外の従業員が抜き取った可能性も否定できない」とする一方、「被告が管理する口座への入金は、世帯収入に比して不自然に多額」などと指摘。被告を含む家族の資産増加額や支出額、被告や夫が正当に入手したと認められる金額から計算し、少なくとも約2000万円を被告が着服したと認定した。

1審の無罪判決に際し、

http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20080511#1210433234

とコメントしましたが、こういう起訴例、有罪例というのは、従来はなかったもので、それだけに、上記のような有罪認定には、かなりの疑問を感じつつ強い関心を持っています。
脱税事件で、通常のP/L立証(入出金に関する証拠が収集できている場合の通常の立証方法)以外に、B/S立証(入出金に関する証拠が収集できず期首から期末にかけての資産の増加等に着目して立証する手法)というものがありますが、横領の世界でもB/S立証のような手法が許容されれば、犯罪立証上は便利ですが、本当にそれで良いのか、という疑問はつきまといます。
上記のエントリーでもコメントしたように、例の募金詐欺のケース

http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20050730#1122691576

が大きく影響しているのかもしれません。
こういった立証しかできない事件は、警察も検察庁も、従来は、事実が特定できないなどとつべこべ言って、被害届や告訴状を受けようとしないものでしたが、今後は、この高裁判決を根拠に立件を強く働きかけることができる可能性も出てきます。この高裁判決をどこまで一般化できるかどうかでしょう。

追記:

現地からの情報で、判決の概要を知ることができましたが、認定事実の大部分は「不特定横領」として横領の日時は特定されず、一定期間の横領が包括一罪とされていて、脱税事件における推計計算の手法が大胆に取り入れられていることがわかりました。
こういった犯罪について、処罰の必要性があるということは、私もそれなりに理解できますが、横領という犯罪が、通常、個々の横領行為毎に1罪が成立すると考えられ訴因としても個々の行為により特定されている中で、継続して同種の横領行為を繰り返されていれば突如として包括一罪になり訴因としての特定もしなくてよくなる、というのは、訴追側にとってあまりにも都合の良い話で、やはり疑問を感じざるを得ません。
こういった推計計算、B/S立証のような手法での横領罪の立証が一般的に許容されると、立証責任が事実上転換され、被告人が所持金や入出金状況につき説明しきれないが故に横領認定を受けてしまうということも生じかねず、問題を感じます。
今後、被告人が上告するかどうかよくわかりませんが、最高裁の判断を見てみたい、という気がします