冒頭陳述に対する認否書

ボツネタ

http://d.hatena.ne.jp/okaguchik/20080202

のコメント欄で、いろいろなエピソードが紹介されていて、興味深く読みました。その中で、「そういえば思い出した 」さんが、

かなり昔の話ですが、渉外辞めたばかりの同期(4*期)が7年目のとき、「冒頭陳述に対する認否書」を裁判所にファックスで提出して受理されなかったそうです。

とコメントしていますが、多分、「渉外辞めたばかりの同期」さんは、検察官の冒頭陳述を、民事事件の準備書面のような感覚で捉えて、そういう書面を作成して、民事事件のようにファックスで送ってしまったものと思います。「受理されなかった」というよりも、受理のしようがないので、裁判官や書記官がメモ代わりに持っていたか、そのまま放置された、ということでしょう。
近年、導入された公判前整理手続では、そういった「認否」が求められる面がありますが、通常の刑事手続では、検察官の冒頭陳述は立証の青写真のようなものであり、それに対していちいち弁護人が認否を行うことはせず、関連性や必要性等について異議があれば述べ、反証は弁護人なりに行う(必要に応じ弁護人も冒頭陳述を行って)、という対応をするのが普通です。
疑問が生じるのは、一旦、渉外弁護士になったとはいえ、その弁護士も、司法研修所で刑事裁判や検察、刑事弁護を学び、実務修習を経ているはずで、そうでありながら、なぜ、そのようなことをやってしまったのか、ということです。また、よくわからないならわからないなりに、裁判所書記官や検察官に聞いてみる、ということをやれば良さそうものですが、おそらく、そういうこともやっていない(聞けば、やらないでしょう)、という点も気になります。わからないことは、他人に聞いてみたり自分なりに調べる、ということは、法律家に限らずどういった職業でも必要なことでしょう。
最近の法科大学院司法研修所における法曹教育に対する不安、不満を聞くことが徐々に増えていますが、少なくとも「実務」法曹養成、という点に関しては、文部科学省や大学教授が何を言おうと、司法修習を終了した時点で、その後の教育を必要としつつも、最低限、ここまで達していることは必要である、ということを明確にした上で、法科大学院ではここまで、司法研修所ではそれを前提にこういった教育を行って、ということを、裁判所、検察庁弁護士会が連携しつつ強く要請する、ということをやるべきだと思います。
従来は、司法研修所における修習が、実務法曹養成の中核と位置付けられ、また、司法修習生の数も少なく、修習期間も今よりは長く、濃密な教育を行うことが可能でした。しかし、修習期間が1年になり(新司法試験合格者)、これだけ司法修習生が激増すれば、もはや司法研修所に従来のような役割を求めることには無理があります。それを、いかにして補って行くか、ということを真剣に考えないと、これまで形成されてきた日本の実務法曹教育の伝統が壊滅的な打撃を受け根底から崩壊する、ということになりかねません。実際、既に崩壊しつつあるのかもしれません。