逃げる検事、逃げない判事

「逃げ回る検事」の件は、昨日、勾留請求却下になり、準抗告もなく、在宅捜査ということになって、一つの山を越えた感じである。
昨日、裁判所へ行ったりする中で、勾留請求却下が6件ほど出る、という話を聞いた。実際に6件出たかどうかは知らないが、「今日は却下が多かった」という話も聞いたので、1件とか2件ではなかったようである。
検察庁が、最近、身柄事件についてどういう方針で臨んでいるか、熟知する立場にないが、安易に勾留請求しすぎているのではないか?と素朴に疑問を感じた。
検察官は、刑事訴訟法の解釈適用に精通している(中には精通していない人もいるが、精通しているべきである)し、捜査を主宰する立場にあるのであるから、勾留請求するかどうかを判断するに当たっては、勾留の要件や、勾留の捜査上における総合的な必要性等を迅速、的確に判断するべきである。私のような、10年余りで検事をやめてしまった「ドロップアウト検事」でも、そういったことはやっていたのであるから、東京地検に勤務しているような優秀な検察官が、それができないはずがなかろう。今回の「逃げ回る検事」の対応を含め、大いに反省を求めたいところである。
確かに、休日の日直検事は、私も何度も経験があるが、実際に捜査を担当するのは別の人で、日直検事は身柄の取扱いを決めるだけであるし、多数の事件について処理するという事情もあるので、できる検討に限界があるのは事実である。しかし、記録を見れば容易にわかる事情を踏まえれば、身柄拘束の必要性が認められない、という事件もあり、そういった事件の被疑者は、早期に釈放しても、支障は生じないであろう。身柄を握って放さない、という、駄々っ子のような姿勢は良くないと思うし、不要な勾留請求をすることにより、裁判所、弁護人だけでなく、検察庁に対しても、担当裁判官から問い合わせがあったり、却下に対し準抗告を検討したり、といった余計な手間暇がかかってしまうのであるから、自分で自分の首を締めないためにも、的確な判断が求められると思う。
「逃げ回る検事」に対し、今回の裁判所(東京地方裁判所刑事第14部、「令状専門部」)の対応は、決して却下してくれたからというわけではなく(たとえ勾留決定が出ていたとしても)、良好なものであった。担当裁判官は、忙しい中、都合をつけ、面会に応じてくれたし(5分程度であったが弁護人としては先に書面を出しておりそれで十分であった)、担当裁判官や書記官から、こちらからの問い合わせに対して誠意のある返答が得られ、手際が良かった。「逃げる検事、逃げない判事」を痛感した。
こういった対応の差は、裁判所が、司法改革の中で、国民に信頼される裁判所を目指しているのに対し、検察庁が、旧態依然とした「おかみ」意識に支配され、国民の不信感に無頓着であることの現れなのではないか、と気になったことを記し、この話題を取り上げるのは終えることとする。