芦部信喜先生のサイン入り「現代人権論」

現代人権論―違憲判断の基準

現代人権論―違憲判断の基準

下記の無罪判決の関係で、猿払事件について書かれた、芦部信喜「現代人権論」を取り出して読んでいたところ、私が持っているこの本が、芦部先生のサイン入りであることを思い出しました。
本の見開きのところに、「謹呈 高柳信一様 芦部信喜」と書いてあり、私がこれを古本屋で買ったのは2005年か2006年ころで、高柳信一先生(憲法行政法で高名)が亡くなったのが2004年12月とのことなので、亡くなった後に、蔵書が古本屋へ出て、それを私がたまたま買ったということになるものと思われます。
生前の芦部先生にお会いする機会はありませんでしたが、司法試験の口述試験で、間違ったことを口走ってしまった受験生に、丁寧に説明をしてくださり受験生が恐縮するとともに感激した、という話を聞いたこともあり、写真でしか見たことはありませんが、温厚そうな姿が思い出されます。
猿払事件は、芦部先生の努力にもかかわらず、最高裁で公務員の政治活動の自由を強く制限する判断が示され、それが判例となって今に至っていますが、現代人権論では、日本における公務員の政治活動に対する厳重な(厳重すぎる)制限が、占領下の特殊な政治状況の下で、GHQ内の特定の人物の、感情的な見解の強い影響下で実施されたものであり、世界的に見ても特異なものであることが指摘されていて(312、313ページ)、そういった点は、東京高裁判決の中で、

社保庁職員に逆転無罪=「機関紙配布、処罰は違憲」−国公法違反事件・東京高裁
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100329-00000030-jij-soci

「わが国の国家公務員への政治的行為の禁止は、諸外国と比べ広範なものになっている。グローバル化が進む中で、世界標準の視点などからも再検討される時代が到来している」とした、異例の付言をした。

と指摘されている通りです。
東京高裁の無罪判決を、芦部先生が御存命で知ったならば、何と言われるだろうかと、本の署名を見ながら、ふと考えました。