辻政信といえば、昭和史に関する本を読んでいると、傲岸不遜、独断専行、国を誤らしめた陸軍参謀という悪い印象しか出てこず、最近亡くなった半藤一利氏も「絶対悪」と評価しているくらいですが、本書では、読売新聞記者である著者が、史料を丹念に洗い関係者への取材も積み重ねて、偏りのない等身大の辻政信像を構築しようとしています。それはそれなりに成功しているように思われました。
読んだ感想として、確かに、辻政信は大きな問題を抱えた人物で、その罪は大きかったと思います。しかし、人としての魅力も大きかった。陸軍内でも支持者が多く、戦後も衆議院議員、参議院議員に連続当選し選挙で絶大なる人気を博していたこともその現れでしょう。印象的だったエピソードは、戦後に苦労していた旧知の人物の娘さんに、なんの見返り求めずお金を差し上げ、今なお感謝されているもので、そのように、著書が売れて入った莫大な印税収入を友人、知人に分け与えて自分は清貧に生きていて、こういう人物には心酔する人が多いだろうなと感じるものがありました。
その最期は、ラオス方面で失踪し、スパイとされて処刑されたとも言われていますが、辻政信なりの使命感に基づく死を覚悟しての渡航であったことが本書では明らかにされていて、辻政信らしい最期であると感じました。
昭和史、陸軍史の中で、とかく悪者として位置づけられがちの辻政信の、多面的な、等身大の実像を見ていく上での良書として、今後も読み続けらるべきだろうと感じました。