「渡辺錠太郎伝: 二・二六事件で暗殺された「学者将軍」の非戦思想」

 

 2.26事件で反乱軍に殺害された渡辺錠太郎陸軍教育総監の評伝で、なかなか読み応えがあって読み通せずにいたのを、頑張って最後まで読み通しました。先年、亡くなった渡辺和子氏の父君としても名が知られています。

読んでいて感じたのは、軍人として、とてもバランスが取れた常識人であったことで、それは、給料の大半を書籍代に充てていたとも言われる豊富な読書に支えられていたのでしょうし、貧しい境遇から身を起こし苦労して陸軍大将へと上り詰めていった、そのキャリアからも来ているのでしょう。統制派、皇道派の争いの中で、渡辺氏としてはどちらかのつく意識がなかったにせよ、厳格に粛軍を目指したその行動が、皇道派から見れば統制派寄りに見られ、憎悪の対象になって上記のような非業の死へとつながってしまった、その不運を感じずにはいられませんでした。歴史に、もし、はないにせよ、昭和11年以降も渡辺氏が軍籍にあれば、日本にとって良い方向での影響力を発揮したのではないかと、残念な思いを禁じ得ませんでした。

本書では、渡辺氏の生涯だけでなく、戦後における渡辺和子氏や2.26事件関係者の親族との交流なども丹念に描いていて、2.26事件外伝的な部分もあり、その点でも興味深く読みました。

陸軍のような巨大組織内での派閥争いが、国家の命運を左右してしまった過去の歴史は、単に過去の出来事として片付けられるのではなく、貴重な歴史の教訓として今後の日本に生かされるべきでしょう。