多頭飼育崩壊の家から犬を無断で連れ出し…救出か窃盗か

多頭飼育崩壊の家から犬を無断で連れ出し…救出か窃盗か(朝日新聞デジタル) - Yahoo!ニュース

県警が踏み込む2日前の6月22日未明。複数の動物愛護団体のメンバー約20人が、この空き家から数十頭の犬を連れ出していた。呼びかけた県内の愛護団体の女性代表(47)が朝日新聞の取材に、無断で連れ出したことを認めた。  

代表らによると、空き家から飛び出した犬に近隣住民がかまれるなどの被害を耳にしていた。前日の21日、近くに住むメンバーからの連絡で屋内を確認し、増えすぎて適正な飼育ができていない「多頭飼育崩壊」が起きていると判断したという。

刑法には、危機から生命を守るための行為は罰しないとする「緊急避難」という定めがあるが、想定しているのは人間の生命だ。「日本の法体系では動物はモノ扱い」と林弁護士。動物の生命が危機にさらされていたとしても、警察や行政機関に協力を仰いだり、飼い主を説得したりするなどの別の方法で救出するべきだったとする。

 刑法上の緊急避難は

第三十七条 自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
2 前項の規定は、業務上特別の義務がある者には、適用しない。
 という規定で、成立する場合は違法性が阻却されますし、「程度を超えた」場合、すなわち過剰避難の場合は、違法性は阻却されませんが責任が軽減し、刑の減軽または免除が可能になります。
上記の規定にあるように、現在の危難の対象には「自己又は他人の財産」も含まれており、動物は、法律上は「財産」に該当しますから、それに対する緊急避難はあり得ます。記事では、近隣住民が犬に噛まれる被害も出ていたようですから、その意味で、人の身体に対する危難を避ける緊急避難も考えられるでしょう。
生じた害は、意に反した住居への侵入による住居の平穏、犬の他所への移動であり、避けようとした害は犬の死亡や噛まれた人の怪我で、後者のほうが程度が大きいと思われますから、緊急避難が成立して、住居侵入罪や窃盗罪の違法性が阻却される可能性は高いように思われます。
ただ、そうした行為に必ず緊急避難が成立するとは限りませんから、まずは公的機関の手によるとか飼い主に善処させるといったことを優先するべきだと私も考えます。
なお、窃盗罪について付け加えると、犯罪成立上必要とされる「不法領得の意思」が欠如していると評価される可能性もあると思います。不法領得の意思は、権利者を排除し他人の物を自己の所有物としてその経済的用法に従い利用処分する意思とするのが通説、判例ですが、本件ではあくまで犬の救出のために一時的に保護しようとしたもので自己の所有物としようとしたわけではなく(おそらく)、犬を可愛がって飼おうといった、その物(犬)の経済的用法に従い利用処分する意思によるものとも評価しにくいでしょう。その意味で、窃盗罪が成立しないという評価もあり得ます。