映画「帰ってきたヒトラー」

http://gaga.ne.jp/hitlerisback/

ちょっと話題になっていたので興味を感じて観てきました。楽しめたと同時に、ピリッとした風刺も効いていて、単にヒトラーをネタにしたコメディーという浅薄なものではありませんでした。
ヒトラーが現代にタイムスリップしても、誰もヒトラーだとは思わず、ヒトラーを演じるコメディアンとして人気が沸騰、という流れで、笑えるストーリーなのですが、待てよ、これって歴史の中でヒトラーが人気を博し政権を獲得した過程とダブらないか、という気が、観ながらしてきました。本物のヒトラー(という設定)ですから、実に雄弁であり、現代のドイツ社会が抱える問題を鋭く突いてきます。ヒトラーを生んだのは当時として最も民主的と言われたワイマール憲法体制であり、映画でコメディータッチでヒトラーが人気を博す、その様子こそが、ヒトラー的なものの危険性を描いているように私には感じられました。
(以下、ネタバレ注意)
人気者になったヒトラーを主人公に、映画が撮影されて、その中の一場面で、ヒトラーが、私は人々の心の中にいる、といった趣旨のことを述べていて、ここは映画の製作者が特に伝えたかったところではないかと感じられました。ヒトラー(役の俳優)が、様々な場所へ出向いて様々な人々と交流する場面は、アドリブで人々に接して回った様子を撮影したそうで、その反応を見ていると、ヒトラー的なものへの親近感や期待感を感じさせるような人々も少なからずいたのが印象的でした。
一見、ヒトラーが現代によみがえるという不謹慎な映画のようでいて、実は、我々は民主国家、民主社会の中にいても常にこうした人物の出現を、喝采をもって迎えてしまう、そういリスクを抱えている、そういった風刺、警鐘を鋭く訴えた、なかなかの良い映画であったと思います。