生きて帰ってきた男――ある日本兵の戦争と戦後 (岩波新書)

昨年、書店で本を物色していた際、この題名が目に飛び込んできて思わず手に取り、ちょっと立ち読みしてみるとなかなか興味深そうな内容だったので買って、途中まで読んでいたのを、やっと最後まで読み通しました。生きる戦前、戦中、戦後史という感じで、大変参考になりました。普通の本ではなかなか紹介されていないような、市井に生きていた当時の人の生活体験が語られていて、そういう意味では稀有な1冊と言えるように思いました。
私は昭和39年生まれですが、幼い頃の、うっすらと記憶に残っている風景や周囲の人々が話していたこと、その後、昭和40年代から50年代にかけての私が中学校、高校、大学へと通っていた頃、更にその後の今に至るまでの記憶を、この本の「帰ってきた男」の語るところと重ね合わせると、ああ、そうだったな、と思われる部分もかなりあって、私も戦後生まれとはいえ戦後の昭和を生きていたということが改めて実感されました。
私が大学に入ることまでは、こういった戦前、戦中派の人々がまだかなり健在で、普通の市民で左翼とか反権力といったことでなくても、国や権力のせいでひどい目にあった経験に照らして、適度な警戒心を持ちつつ日々を過ごしていて、そういった人々の存在が社会の中で良い意味での「重し」になっていたような面があったと思います。この本に出てくる「帰ってきた男」もその1人であったと言えるでしょう。そういう人々が次第に鬼籍に入り戦争体験や戦後の苦しい日々の体験も徐々に風化しつつある今、こういった貴重な体験談ができるだけ広く読み継がれることに、大きな意味、意義があると、読み終わり強く感じるものがありました。