あっせん利得処罰法の「権限に基づく影響力を行使して」の解釈

不明朗な金銭の授受等で雑誌報道があり注目されていた甘利大臣が電撃辞任し、あっせん利得処罰法(公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律)違反が成立するかどうかも注目されています。ポイントの中で、成立要件の1つである「その権限に基づく影響力を行使して」のハードルが高く、成立は相当難しいのではないか、という意見も見られます。

「ハードル高い」あっせん利得法違反 報道事実なら規正法には抵触?
http://www.sankei.com/politics/news/160127/plt1601270044-n1.html

検察関係者の一人は「立件は容易ではない」と話す。捜査経験の長い検察OBの弁護士も「問題になるのは『権限に基づく影響力の行使』という構成要件で、口利き全てが処罰されるわけではない」と指摘する。例えば、議員や秘書が「何とかしてほしい」と言った程度では「影響力の行使」とは言えず、「何とかしてくれなければ議会で取り上げる」「人事異動させる」といった強い文言がなければ難しいという。

同法では、「公職者あっせん利得」として、1条で、

1 衆議院議員参議院議員又は地方公共団体の議会の議員若しくは長(以下「公職にある者」という。)が、国若しくは地方公共団体が締結する売買、貸借、請負その他の契約又は特定の者に対する行政庁の処分に関し、請託を受けて、その権限に基づく影響力を行使して公務員にその職務上の行為をさせるように、又はさせないようにあっせんをすること又はしたことにつき、その報酬として財産上の利益を収受したときは、三年以下の懲役に処する。
2  公職にある者が、国又は地方公共団体が資本金の二分の一以上を出資している法人が締結する売買、貸借、請負その他の契約に関し、請託を受けて、その権限に基づく影響力を行使して当該法人の役員又は職員にその職務上の行為をさせるように、又はさせないようにあっせんをすること又はしたことにつき、その報酬として財産上の利益を収受したときも、前項と同様とする。

とされ、2条では、主体を「議員秘書」として、1条と同様の行為が処罰対象になっています(甘利問題では議員秘書についてもあっせん利得処罰法違反の成否が問題になりますが、「権限に基づく影響力を行使して」については1条と同じ問題状況にあります)。
この点については、従来の解釈では、権限とは「法令に基づく国会議員の職務権限をいう」とされ、そのような権限に基づく影響力とは、「権限に直接または間接に由来する影響力」をいい、その中には、「法令に基づく職務権限の遂行に当たって当然に随伴する事実上の職務行為から生じる影響力を含む」と一般的に解されているところです。
さらに、注意しなければならないのは、上記の構成要件上、処罰対象になっているのが、

その権限に基づく影響力を行使して公務員にその職務上の行為をさせるように、又はさせないようにあっせんをすること又はしたことにつき、その報酬として財産上の利益を収受

することであり、報酬の収受とあっせんは対価関係に立つ必要がありますが、

あっせんをすること・・・報酬の収受があっせんの前か少なくとも同時並行
あっせんをしたこと・・・報酬の収受があっせんの後(事後)

という関係にあることです。
事後であれば、その前に行われたあっせんが既に実行されていますが、事前あるいは同時並行であれば、「これからやってもらう」「やってもらっている」あっせんに対して報酬が支払われるわけですから、必然的に、「やったかどうか」ではなく「やろうとしたかどうか」という、当事者が財産上の利益に込めていた趣旨が問題になります。その意味で、上記のような、法令に基づく職務権限の遂行に当たって当然に随伴する事実上の職務行為から生じる影響力を含む、権限に直接または間接に由来する影響力の行使を期待し、期待に応えようとしていたかが、本件におけるポイントになると思われます。
このように考えてくると、特に国会議員の場合、国政調査権、委員会における質疑権、内閣に対する質問権など、様々に強力な権限を持ち、他の議員に働きかけてそういった権限を行使させることもできますから、その権限に基づく影響力を行使する余地はかなり広く大きなものがあって、そうであるからこそ、様々な人々が国会議員に、その中でも有力政治家にアプローチをかけようとするのが実態でしょう。甘利氏は、その意味では「一強」状態の安倍内閣の中での有力閣僚であったわけですから、財産上の利益を供与して、その権限に基づく影響力を行使してほしいという人が近づいてくるのは、ごく自然なことであり、多額の現金を収受したり繰り返し接待を受けたりしつつ口利きを依頼されながら(されていたとして)、その権限に基づく影響力を行使する、そういう趣旨が込められているという認識がなかった、というのは、口利きを依頼されている問題が複雑困難なものであればあるほど、社会通念に照らしてむしろ考えにくいことではないかと思います。
もちろん、証拠による慎重な認定が必要ではありますが、あっせん利得処罰法の立法趣旨(口利きにより財産上の利益をやり取りすることによる政治腐敗を防止する)に照らしても、この点のハードルを不自然、不合理に上げすぎてしまっては、まったくの「ザル法」化しますから、健全な社会通念に即した解釈が望まれるのではないかと私は考えています。